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星と紅茶、宇宙の血
【お題:紅茶と宇宙 必須要素:血液型】
じいちゃんはいつも、縁側に置いた大きなソファに身体を預けながら空を仰いでいた。
「昔、オレはあそこにいたんだ」
口癖だった。ずっと昔、でもじいちゃんにとっては昨日、じいちゃんは空の上、大気圏も超えたその先にいたのだ。
「じいちゃんは凄いんだね」
「オウヨ」
それからじいちゃんは宇宙飛行士だったときの物語を語りだす。話している間、じいちゃんはこちらには一瞥もくれない。そもそもじいちゃんが、俺のことを誰と認識しているのかも分からなかった。「大きくなったなぁ」と毎日言われた。
それでも俺はじいちゃんの話が好きだった。宇宙の話をしているとき、しわがれた声に揺るぎのない、よどみのない力が漲るのを凄いと思っていた。
「じいちゃん。お茶」
「オウヨ」
俺はいつも、じいちゃんが話疲れて喉が渇く頃を見計らって紅茶を淹れる。宇宙の香りがするというちょっと面白い代物だ。「溶けた金属のような甘い香り」らしいが、それが本当に宇宙の香りなのかは、宇宙に行ったことのない俺には分からない。
「お前のお茶はやっぱりうまいナァ」
紅茶の味を褒めるときだけ、じいちゃんは俺を真っすぐ見る。たぶんだけど、このときだけははっきりと俺が俺であると認識しているような気がする。
「お前、血液型は?」
「Bだよ、じいちゃん」
「そうか、オレと一緒だ。お前にも宇宙の血が流れてるんだな」
「宇宙の血?」
「オウヨ」
じいちゃんはそれだけ言って、目をつむって眠ってしまった。柔らかな笑みを湛えたまま、太陽の光に身を委ねているように見えた。
それが俺が覚えているじいちゃんの一番新しい記憶。
「行ってくるよ、じいちゃん」
あの香りが本物に似ているかどうか、確かめるために。
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