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守に入れば得られずとも失わず
【お題:振り向けばそこに希望 必須要素:育毛剤】
「毛が生えてきたぞ!」
後ろを振り向けば、そこには全身を映せるほどの大きな鏡がある。そこに映る私の肌色の頭頂部。それを囲うように生えている最後の希望。艶やかさはもうないけれど、後頭部には確かに黒い髪の毛が生えている。
「育毛剤が効いたんだな!」
天にも昇るような心持ちだった。使い続けて約半年。普段正面からしか鏡を見ていなかったから、そこに髪の毛が生えていることに気づかなかった。
「いや、待てよ」
ふと気づく。
私は今まで、「スキンヘッドでありハゲでない」というスタンスで過ごしてきた。隠そうとしたり、恥ずかしがったりしたら、それはハゲであることを周囲に露呈してしまう。だから私は、あくまでも「スキンヘッドですよ」という顔で生きてきた。
このまま、中途半端に髪の毛を残していれば、それはもうスキンヘッドではなく、ハゲだ。
だが、育毛剤の効果でこれからどんどん毛が生えてくる可能性だってある。そうすれば、正真正銘ハゲから脱却できる。
悩み、考え、結果、私はバリカンを取り出す。もう五十二歳。自分の毛根を信じるには歳を取り過ぎたのだ。
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