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ブランド星人
【お題:彼女のブランド品 必須要素:マフィン】
「ねえ、このマフィンってどこの?」
「それは、エンゼリエールってとこのだよ」
「へえ、そうなんだ! 結構有名なとこ?」
「いや、実は知る人ぞ知るって感じなんだけどね。ネットとかでもあんまり出てこないけど、通な人の間で有名なんだ」
「へえ!」
瞳をキラキラ輝かせている彼女を見て、罪悪感が襲ってくる。嘘は準備していると、何のよどみもなく口から出てきてしまう。本当はエンゼリエールなんてブランドはない。そのマフィンだって、安くはないけれど、特段高くもない、そのへんのお店で買ってきたものだ。
彼女はマフィンをひとつつかみ、小さな口で一口齧る。瞬間、晴れやかな笑みを浮かべ、さすがブランド品、とはしゃぐ。俺の胸は痛む。
彼女の家に遊びに来た。そのための手土産でさえ、それなりに有名なブランドのものじゃないと彼女は喜ばない。
彼女は自分に自信がないのだと言う。自分が好きなものが良いものだと信じられない。他人が、多くの人が、一般大衆が良いと認めているものしか、自分も認められない。
だから彼女の持っているものは、全てブランドを背負っている。バッグも、財布も、服も、靴も、食べ物だって、飲み物だって、家電だって。金遣いは荒い。だけど、性格はおとなしく控えめ。彼女は自分に自信がないから、威信を背負うためにブランドを手に入れる。
「ね。一緒に食べようよ」
彼女が手招きをする。僕は誘われるようにソファに座り、彼女にキスをする。
「ね。俺のどういうところが好き?」
「えっとね」
彼女ははにかみながら言う。
「理恵も、絵梨も、美香も、美月も、優君のことが好きだって言ってたの」
「そっか」
俺は笑う。ずっと前から分かっていたことだから。
「じゃあ、優君は? 私のどういうところが好き?」
「胸が大きいところ」
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