月を見たいから豆をまく

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月を見たいから豆をまく

【お題:ぐふふ、月 必須要素:節分豆】  月が見たいから豆をまく。  だって君は10月の満月の日にしか僕の前に姿を見せない。 「私、ずっと待ってた」  僕はいつの間にか縁側で月を見ていた。傍らには、皿にピラミッドみたいなかたちで盛られた団子がある。 「そうか。僕は一瞬だったよ」 「人間にとっての1年は、そんなものなのね」 「ああ。そんなものなんだ」  不意に、背中に重みを感じた。秋不離(あきふらず)が覆いかぶさるような形で、僕に腕を回している。 「私はずっと、本当にずっと、今日を待っていたのに。不公平だわ」 「そうでもない。その分君は、僕よりもずっと長生きだ」 「やっぱり不公平だわ。その分私の方が独りの時間が長いもの」  秋不離が僕の耳を甘く噛む。拗ねているときに、彼女はいつも僕の身体のどこかを噛む。 「そうだろうか。いや、そうかもしれないな」  僕は右手の中の豆を弄ぶ。指先で転がし、その丸みを手のひら全体で感じる。 「豆? どうしたの、それ」 「これはね、去年の2月に鬼にぶつけた豆」 「なんでそんなもの、持っているの?」 「……食べられるかなと思って」 「お腹壊すわよ」  秋不離が少し泣く。たぶん、もうすぐ今日が終わるから。今日が終われば、また1年、僕らは出会えない。 「大丈夫だよ。すぐに追いつく」  節分の豆。  節分というのは、季節の分かれ目のことで、それは2月だけを表すものではない。昔は、年4回節分があった。  豆をまくと、季節が進む。そして僕は、一瞬でまた秋を迎える。
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