雨守の家

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雨守の家

【お題:宗教上の理由で転職 必須要素:絵画】  ぽちゃん、という音が部屋に響く。  洗面器やらバケツやら中身の空になったツナ缶なんかを、床のいたるところに配置し、雨を優しく受け止める。  空から降ってくる雫を、神聖なものとして、崇拝するのが雨守様の教えだ。  だから自分が住む家は、決して雨を拒むものであってはいけない――。  必ず雨を屋内に迎え入れるように、言ってしまえば雨漏りするように、家を建てることになっている。 「今日は、雨守様、たくさんいらっしゃってるね」  妻がそう言いながら居間にやってくる。 「そうだね。梅雨入りしたから、しばらくこんな日が続くと思うよ」 「嬉しいわ」 「今、パン焼いてるから。コーヒーもいれるよ」 「ありがとう」  こんな日が、続いていくのだろう。覚悟していたことだ。それでも、妻と一緒になりたかった。絵描きという仕事を投げ捨ててでも、欲しいものがあった。部屋中の紙が濡れている。  明日も雨が降ると良いね、と僕は言う。
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