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傷を舐める
【お題:空前絶後のぺろぺろ 必須要素:スキンケア】
「つばつけときゃなおるよ」
母にそう言われて擦りむいた膝を舌で舐めた瞬間、自分が普通じゃないことに気づいた。
傷が塞がったのだ。一瞬で。
口内に鉄の味がした時間よりも短かった。私はすぐに、隠すように絆創膏を貼った。そして二日後に外した。傷は綺麗になっていた。最初から。
自分の唾液には修繕する能力があった。裂け目とか、割れ目とか、陥没とか、そういったものを修復する能力があった。だからけがをしてもすぐに治るし、肌荒れなんかも一瞬で綺麗になった。だから私は痛みに無頓着になり、ストレスをためることにも躊躇いがなくなり、そして人の痛みに共感できなくなった。
「もう少し思いやりをもちましょう」
小学校の先生によく言われた。その度に「はい」と答えたけど、先生はそれが口だけの返事だと気づいていたようで、ただため息をつくばかりだった。
そして私は、嫌なことがある度につばをつける。そうすれば治るのだと知っている。
「ねえ」
私のこれは、舐めないでね。
そう言う友人の手首にある傷を、私は舐めたいと思っている。
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