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Rain in the palm
【お題:女のぬめぬめ 必須要素:大道具さん】
彼女の手を握ることが、僕にできる精いっぱいだった。
脇役だけど、それでも彼女にとっては一世一代の晴れ舞台で。主役の陰に隠れているけど、彼女はきっと今慣れない舞台に困惑で頭がいっぱいなのだと思う。
本当はずっと、スポットライトを浴びたかったのだと思う。大道具係で舞台を彩るガジェットを作りながら、ずっとあこがれていたのだと思う。
そこに今、彼女がいる。
王子様とお姫様の脇で、愉快に楽しく踊る一対の妖精が僕たちだった。
彼女の手のひらをそっと包みながら、ステップを踏みながら、彼女が安心できるように必死に微笑みを作って彼女に向ける。彼女はそれで嬉しそうに微笑む。
彼女の手は汗でじっとりと湿っていて、ともすれば組み合わせた掌の隙間から水滴が零れてしまいそうになる。
それを僕は必死に受け止める。
緊張するとずっとこうなの、と言っていた。だから私は、舞台に立てないのだと。
そんなことないよ、と手に祈りを込める。だって今この場で踊る妖精は、こんなにも美しい。
踊りを終える。
スポットライトが僕らを端っこの方で照らす。
歓声を聞きながら、僕は彼女に笑いかける。
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