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緊張と緩和
【お題:くさい音 必須要素:コメディ】
屁の音が鳴った。
電車内に緊張が走る。車内は満員で身動きができない。
俺じゃないよな……?
右手で吊革につかまりながら、鼻をスンスンと鳴らしてみる。俺の周辺で臭気は漂っていない。となると俺じゃないと思うが、俺だけ自分のにおいに気づいていないだけというのも否定できない。
俺はさっきからうんこがしたかった。必死に我慢をしていた。肛門にきゅっと力を入れてお腹の力を抜き、便意をごまかすのを繰り返していた。そして、屁の音が鳴る直前にも、お腹の力を抜く作業を行った。
感覚的には、屁は出ていないはずだが……。
どうなのだろう。自信がない。自分じゃ気づかないうちに屁が漏れ出てしまったのかもしれない。周囲の乗客が俺を見てるような気がする。いや、気にしすぎだろう。
なんにせよ、目的の駅は次だ。あと数分で到着するだろう。そこで降りてしまえば、犯人が誰にせよ俺はこの地獄から解放される。
俺の隣に立つ若い女性が咳き込む。
いや、俺じゃないよな……。
車内アナウンスで次に到着する駅がコールされる。早く着いてくれ……。
瞬間、屁の音が鳴る。
俺から一番近いドア付近から音が聞こえた気がする。少なくとも、俺ではない。
良かった――。
今日一番の緊張から解放されて、気を抜いた瞬間だった。
屁の音が鳴る。
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