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「……さっきも言ったけど、チャーって将来の夢とかあるの?」
「まだなんにも決まってないよ。サラリーマンとかなんじゃないのかな、やっぱり」
「なんか夢がないですねえ、キミ」
「そうかな?」
「そうだよ。あ、そうだ、彫刻家になれば? あの紙粘土のドラゴンとかすごく上手だったし、なんか芸術家ってカッコイイじゃん」
「えー、そんなの考えたことないよ」
「チャーってなんか、いつも自信がないことばっかり言うよね」
「そりゃそうだよ。ぼく、なんにもできないし」
「そんなことないって。だってキャッチボールもできるようになったじゃん」
「そうだけど、あれはタマタマだよ」
「大丈夫だって、自信持ちなよ」
「うん、でも——」
「でもとか言わないで。あ、金魚すくいのときの《命令》ってまだだったよね?」
「う、うん」
「決まったよ」
「な、なに?」
「ちゃんと命令はスイコーしてよ。約束なんだから」
「うん、分かった。でもヘンなこと言わないでよ」
「命令は……『将来、彫刻家になるのだ!』です」
「えー、ちょっと待ってよ。将来を決められちゃうの?」
「アハハ、面白くない?」
「面白くないよ」
「でも、命令だから守ってよ」
「……」
「分かった?」
「うん、頑張ってみる……」
線香花火と話題が尽き、奈緒子が立ち上がって気持ちよさそうに伸びをした。闇に揺らめく白いワンピースから漂うバラの香りに、低い鼻を優しくくすぐられる。
「じゃあ、帰る?」
言って見ると、
「わたしは帰らないよ」
と、奈緒子が微笑みながら言った。
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