31:線香花火

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「……さっきも言ったけど、チャーって将来の夢とかあるの?」 「まだなんにも決まってないよ。サラリーマンとかなんじゃないのかな、やっぱり」 「なんか夢がないですねえ、キミ」 「そうかな?」 「そうだよ。あ、そうだ、彫刻家になれば? あの紙粘土のドラゴンとかすごく上手だったし、なんか芸術家ってカッコイイじゃん」 「えー、そんなの考えたことないよ」 「チャーってなんか、いつも自信がないことばっかり言うよね」 「そりゃそうだよ。ぼく、なんにもできないし」 「そんなことないって。だってキャッチボールもできるようになったじゃん」 「そうだけど、あれはタマタマだよ」 「大丈夫だって、自信持ちなよ」 「うん、でも——」 「でもとか言わないで。あ、金魚すくいのときの《命令》ってまだだったよね?」 「う、うん」 「決まったよ」 「な、なに?」 「ちゃんと命令はスイコーしてよ。約束なんだから」 「うん、分かった。でもヘンなこと言わないでよ」 「命令は……『将来、彫刻家になるのだ!』です」 「えー、ちょっと待ってよ。将来を決められちゃうの?」 「アハハ、面白くない?」 「面白くないよ」 「でも、命令だから守ってよ」 「……」 「分かった?」 「うん、頑張ってみる……」  線香花火と話題が尽き、奈緒子が立ち上がって気持ちよさそうに伸びをした。闇に揺らめく白いワンピースから漂うバラの香りに、低い鼻を優しくくすぐられる。 「じゃあ、帰る?」  言って見ると、 「わたしは帰らないよ」  と、奈緒子が微笑みながら言った。
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