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だからこそ、
「席替えをします」
という、町山先生の明るい言葉が、世界崩壊を告げる鐘の音にしか聞こえなかった。
絶望の中で順番が来て、「意志の力が強ければ、奇跡は自ずとやって来る」という目羅博士のセリフを何度も胸中で唱えながらクジを引くと、《11》だった。
「山下さん、何番だった?」
何気ない風をよそおって訊くと、
「うん、わたしは《5》だよ。宮瀬くんは?」
と、山下奈緒子が微笑んだ。
5と聞いた瞬間、もうどうでもよくなってしまった。5番と11番じゃあ、前のほうと後ろのほうだ。となりの席という理由だけで話してくれているだろう山下奈緒子とこれでお別れなんだと思うと、なにもかもがイヤになった。
「ぼくは11……」
「そう、じゃあちょっと離れちゃうね」
「うん……」
無言のまま席を移った慎吾は、更に絶望した。うしろの席はガリ勉メガネの純平、となりの席は、あまりしゃべったことのない桑田吉乃。
ぜんぜんいい席じゃない。
山下奈緒子の前の席はワチコで、右どなりは太一、左どなりは直人だった。
ますます近づけやしない。直人も太一も苦手だし、ワチコには近づきたくもなかった。
窓の外を見ると、黒い梅雨雲が雷鳴を轟かせていた。
慎吾は胸のなかで「また眠れなくなるかもしれない」と独りごち、これから始まる大嫌いな夏を思って、ため息を吐かずにいられなかった。
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