5:「お前」

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「なんで奈緒……山下さんに、殴られんのさ」 「だってお前、なんでか知らねえけど、さいきん山下と仲いいだろ」 「でもこのケガは山下さんとは関係ないよ。純平に本で殴られたんだ」 「純平に? なんだ、お前ケンカとかするんだ」 「ケンカじゃないよ。純平がいきなり殴ってきたんだよ」 「でもお前、純平の前で山下としゃべったりしてたんだろ、どうせ」 「なんだよ、どうせって。なんでそんなこと分かるんだよ」 「山下と仲いいお前が純平に殴られたんなら、それしか理由がないだろ。そんなの誰だって分かるよ」  いつものようにバカにされているのを感じ、 「言ってる意味が分かんないよ……」  と、抗弁する気も失せて慎吾はつぶやいた。 「分かんねえことないだろ、なあ成田ちゃん」 「まあ、色々とあるから。小学生も大変ね」 「意味が分かんないよ。なんで殴られんのさ」 「べつにいいよ、分かんねえなら」 「まあ、お茶でも飲みなさい」  苦笑しながら麦茶をコップにそそいだ成田先生が、 「それ飲んだら、教室に戻りなさい」  と言って、保健室を出て行った。  ベッドで麦茶を飲み干した直人が「お前も大変だよな」と、含み笑いを浮かべて保健室を出て行く。  ひとり残された慎吾は、ふたたび中庭を見た。  風に揺れる、紀子の束ねた後ろ髪。  楽しそうに笑う女子たちが、手の届かない世界の住人のように思えてならなかった。  麦茶を一気に飲み干してから教室に戻ると、 「大丈夫だった?」  と、すぐに奈緒子が声をかけてきた。 「うん、そんなひどいケガじゃなかったみたい」 「良かった……」  瞳を(うる)ませる奈緒子に、胸が痛んだ。純平に噛みつかなければ、こんな顔を見ることもなかったのに。  慎吾は、純平のもとへ行き、 「ごめん、ぼくが悪かった」  と、心の底から謝った。 「もういいよ」  目も合わせずにつれなく言った純平と、不格好な絆創膏を額に貼った慎吾は、気まずさを抱えながらも、またそれぞれの日常へと戻った。  慎吾は、教室の入り口で心配そうに佇む奈緒子のもとへ戻り、 「行こうよ、神社」  と、精一杯に明るく言った。 「でも、今日はやめといたほうがいいんじゃない?」 「大丈夫だって、こんなケガ大したことないよ」 「うん……」  おかしな気持ちになってるのは分かっていたが、今日どうしても神社に行かなければ、という気持ちのほうが勝っていた。
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