37人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後。
慎吾はめずらしく次郎と帰っていた。
サッカー部の次郎は、一ヶ月前に交通事故で左足を骨折し、部活をしばらく休むはめになっていた。そもそも事故の原因も、紀子の気を引くために取った行動のせいだというのだから、本当にどうしようもない。
「でも、ビビったよな」
「なにが？」
「山下奈緒子。おれあんなにカワイイコを見るの初めてだよ。紀子よりカワイイかも」
鼻の穴を広げて話す次郎に、慎吾は深くため息を吐いた。
「おい、なんだよ。チャーだって緊張してたじゃねえか。カッコつけんなよ」
「そりゃ、そうだけど……」
次郎の言うことはもっともだったが、山下奈緒子の物憂げな顔が頭から離れなかった。
「でも山下さんさ、なんかすごい悲しそうな顔をしてたよね」
「うーん、そうかなあ、おれはよくわからなかったけど」
「わからなかったんならいいや。ぼくの気のせいかもしれないし」
それから、少年マンガ『妖怪博士 目羅博士』の話や、「ＵＦＯはいるのか？」といった他愛のない話をし、商店街のあたりで次郎と別れた。
いつもこの時間帯に潰れた文房具店の前で唄っている、ミオカさんという小汚いオジサンを横目にとおり過ぎながら、どこからか香るカレーの匂いで慎吾は無性に空腹を感じた。
せつない想いを
とにかくキミに伝えたい
マジで愛しておくれよ
さらに百倍キミを愛すから
つくための上手いウソなんて
グシャグシャにしてしまって
下手なホントを言いたいんだ
いつもながら調子外れのミオカさんの歌を聴きながら、「でも家に帰っても、だれもいないんだよな」と、当たり前のことを思って慎吾は憂鬱な気分になった。
共働きの両親と夕飯をともにすることはほとんどなく、慎吾はコンビニ弁当を下校時に買うことが日課になっていた。今日もコンビニに寄って『週刊少年 サクセス』を立ち読みしたあと、カレー弁当と総菜パンをふたつにおまけでコーラを買い、晴れ渡る茜空を見上げて歩きながら山下奈緒子のことを考えた。
確かに次郎の言うとおり、山下奈緒子はとてもカワイイ女の子だった。だがあの悲しそうな表情がやっぱり気がかりだった。あんなに悲しそうな顔を見たのはいつ以来だろうか。
家に着いた慎吾は、誰もいない邸内に「ただいま」と言って居間に入り、昨日から出しっぱなしのコップにコーラを注いで一気に飲み干した。
「あー、ウマイ！ やっぱり最高だな！」
お父さんがビールを飲み干したあとに言うお決まりの台詞をまね、慎吾はカレー弁当を口いっぱいに頬張った。
最初のコメントを投稿しよう！