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28:イタズラ
その夜。
ビルの隙間に身を潜めながら、慎吾はバラバラ女を見守っていた。
正直、やりすぎな気もする。一緒に遊べなかった間も奈緒子たちはやっていたのだから、その人数は相当なものになっているんじゃないだろうか?
「……ねえ、もういいんじゃない? 十時だよ」
奈緒子から預けられた目羅博士の腕時計を確認して言うと、
「まだまだ。もっともっと頑張んなきゃ、溶かせないよ」
と、刺すように冷たいバラバラ女の声がこたえた。
「でも、もう帰らなきゃ」
「まだ十時でしょ?」
「もう十時だよ」
今日はもう本当にやめたほうがいい気がする。いくら奈緒子でも、さすがにこんなにやり続ければボロを出すにちがいないのだ。
「ホントに、もう帰ろうよ」
「……そうしたいの?」
「うん」
「分かった」
いやにあっさりと承諾した奈緒子が着替えるのを待ちながら、慎吾は空を見上げた。
月が、キレイだった。
「お待たせ」
肩を優しく叩かれて振り向くといつもの奈緒子がそこにいて、ようやく不安感から解放された。
「帰ろう」
「荷物を病院に置いてから帰るから、チャーはさきに帰ってていいよ」
「いつもみたいに家に持って帰ればいいじゃん」
「うん、でもコレ、あのヒトに見つかりそうになっちゃてさ。最低なんだけど、あのヒトってば、わたしの机の引き出しとか見てたみたい。それで《都市伝説コレクション》の聴診器を持って『ナオちゃんは、お医者さんごっことかするのかな?』って、キモチワルク言われちゃってさ。箪笥に隠してたから《バラバラ女セット》は見つからずにすんだんだけど。ほら、やっぱりコレとかは没収されちゃうでしょ」
奈緒子が取り出した包丁の切っ先を冗談めかして慎吾に向けた。
「や、やめてよ」
「アハハ、ごめん。でもホントに病院に置いてくのが、いちばんいいと思うの」
「じゃ、じゃあ、ぼくも一緒に行くよ」
「いいよ、来なくて」
「ダメ、絶対に行くよ。ひとりだと危ないし」
奈緒子が驚いたように、慎吾へ視線を向ける。夜であまり顔も分からないせいか、このときはじめて慎吾は奈緒子から目を逸らさずにいられた。
するとすぐに奈緒子が視線を逸らして、
「分かった」
と、うしろ手に提げた紙袋を揺らしながら言った。
「うん」
これからさき奈緒子が今より不幸になることは絶対にあっちゃいけない。その不安の芽は、ぜんぶ摘み取ってしまえばいい。
道すがら決意を胸にして奈緒子をそっと窺うと、蛍の光よりも淡い笑みを浮かべていた。
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