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29:瀬戸正次
八月二十八日。
今日もまだワチコと直人は来ていない。
「今日も来ないのかな?」
おなじことを考えていたらしい奈緒子が言う。
「うーん、どうだろうね」
「セトくんの家には行かないの?」
「ひとりじゃいけないよ」
「ついてってあげようか?」
「い、いいよ。奈緒子はセトくんとは関係ないでしょ、悪いよ」
同伴を拒否された奈緒子が、心なしむくれて天井を見上げた。
奈緒子を見つめているとヘンな気持ちになる。それをごまかすよう咳払いをしてベッドの下に目をやると、横倒しのままの紙袋が見えた。
「ねえ」
「なに?」
「きのう脅かした人たちさ、大丈夫だったかな?」
「大丈夫でしょ。それに、わたしたちの秘密基地に勝手に入ってきたんだから、あれくらいのことをされてもしょうがないよ」
「う、うん」
「あ、昨日さ、チャーが見たあの赤いナニカってなんだったんだろうって考えてたんだけど、やっぱりアレは『血塗れナース』だったんじゃないかな、て思うの」
「そんなワケないじゃん」
「でも都市伝説ってさ、信じる人が増えると現実世界にホントに現れるんでしょ?」
「それは、ミオカさんが言ってただけだよ」
「でもそれがホントだったらさ、あのときになんで血塗れナースが出てきたのかの説明がつくんだよね」
「へえ、どんな?」
「だからさ、あの時ここにいた人たちって、ぜんぶで五人でしょ。その人たち、わたしたちのイタズラのせいでホントに『血塗れナース』がいるんだって、心の底から信じたんだと思うの」
「だろうね」
「その信じる力が病院を包み込んだんだよ、きっとあのとき」
「でも信じてる人って言っても、たった五人だよ。少なすぎない?」
「でも都市伝説を聞いて、いるのかもしれないってちょっとだけ信じてる人がもし百人いたとしてさ、それと心の底からいるって信じた五人の心の力って、どっちが強いのかな。わたしは心の底から信じてる人がいれば、人数は少なくてもいいんじゃないかなって思うけど」
「人数じゃなくて、ひとりひとりがどのくらい信じてるかってこと?」
「そうそう。それにわたしも信じてるしね」
「でも奈緒子は、ここではじめて会ったときは、『血塗れナース』なんかべつに信じてないって言ってたよね、たしか」
「まあ、あれから色々あったからね」
その言葉に、UFOや、大きなネズミや、たそがれ坂の下で涙をこぼした奈緒子の横顔やらが頭に浮かんでは消えた。
「じゃあ、これから夜は、あんまりここに来ないほうがいいかもね」
「でも、会ってみたいけどなあ」
無邪気に笑う奈緒子が、少し怖かった。
「だれに会ってみたいんだ?」
入り口から声がして、見るとワチコが立っていた。
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