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「あ、来たんだ」
喜ぶ奈緒子のとなりに座ったワチコが、
「ねえ、誰に?」
と、ふたたび訊く。
「うん、血塗れナースに」
「いないよ、血塗れナースなんて。ナオちゃんって、たまにバカみたいなこと言うよな」
「でもそんなこと言ったら、ワチコちゃんが『失恋大樹』のことを信じてるのはどうなの?」
「アレはちがうよ……アレは、ホントだから」
困り顔を作るワチコに、ふとセトくんの影が重なった。
「ワチコ、知ってる? セトくんがもうすぐ引っ越しちゃうんだって」
「え、あ、そうなの?」
戸惑うワチコに、「一緒に会いにこうよ」と言っていいものかどうか|逡巡
《しゅんじゅん》していると、
「ふたりで行ってくれば?」
と、奈緒子が助け船を出してくれた。
「え、いま?」
「そう」
「でもだって……迷惑じゃないかな?」
「そ、そうかもしれないけど、ワチコとぼくはセトくんと仲良かったから、会っておいたほうがいいと思うんだ」
「そうかな?」
「そうだよ、ワチコちゃん。最後に友だちに会っておきたいと思うと思うよ、普通は」
ふたりの説得を聞いたワチコが立ち上がり、窓から顔を出して空を見上げた。
「……じゃあ、行くか」
「う、うん」
曇り空を見て、ワチコがなにを思ったのかは分からなかった。
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