ラスト・エブリデイ

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 🎬 「結先輩! まだいるなら、出てきてください!」  屋上の真ん中で、いつもより声を張った。もしこれで結先輩が現れなければ、本当にもうここにはいないのだとして、結先輩を探すことはやめる。その死を受け入れて、向き合う。そう決めていた。  だけど結先輩は久々に、どこからともなく私の目の前に現れた。両手を背中で組んで、目を伏せ、あからさまに気まずそうにしている。久しぶりに会って、そんなどんよりした空気を出さないでほしい。 「あなたは屋上の地縛霊ですか」 「そんな言い方しないでよ。ずっとここにいたわけじゃないもん」  からかうように言うと、結先輩がぼそぼそと口を動かした。幼い子どもみたいな言い方。肩で息を吐き、改めて結先輩を見据える。結先輩の透過性は、この間会った時よりも増していた。 「この間はごめんね」  覚悟を決めたみたいに、結先輩が顔をあげた。私がまだ怒っていると思っているのか、声色からも表情からもいつになく緊迫感が読み取れた。 「死んだことが悲しくて、私まで泣き通しだったら、糸生ちゃんを困らせると思ってたから……!」 「無理に死んだ後が楽しいふりをしていたってことですか?」 「そう! そうなの!」 「それは嘘ですね」  間髪入れずに言うと、結先輩は言葉に詰まったように唇を閉じて苦い表情を浮かべた。それから少しの間、言葉を選ぶように眉間にしわを寄せる。唇を湿らせたかと思うと、ゆっくりと私をその瞳に映した。 「確かに、死んでからの方が気楽で楽しいっていうのは、嘘じゃない。でもそれは、死んで良かったって言いたかったわけじゃない。糸生ちゃんがいるから。糸生ちゃんと、人目を気にせず、我慢せず、いたいように沢山いられるからだよ」  結先輩の手のひらは、ぎゅっと握られたままだった。まだまだ私に伝えようとしてくれているのだと分かった。 「初めは、まさか目が覚めたら幽霊になってるなんて思いもしなかったから、すごくびっくりした。だけど糸生ちゃんにしか私のことが認識できなかったから、きっと私は、糸生ちゃんに関わる未練とかやり残しがあるんだろうなって思って、いろいろ考えたの。私のことを、真っ直ぐに好きでいてくれた糸生ちゃんを残していくのは気がかりだった。でも、残していくのに気がかりなのは、家族だって一緒だった。じゃあどうして糸生ちゃんって考えた時、私自身が、糸生ちゃんとの過ごし方に未練があったからかなって思った」  私は結先輩の目を見据えて、ただ黙って言葉を聞いた。結先輩の言葉の一言一句も、呼吸さえも、聞き漏らしたくなかった。
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