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電車の揺れに紛れて、甘えるように肩を寄せてくるから、慌てて引き剥がす。
「どっか寄って行かね」
と誘われ、定期券内の駅前にある、観葉植物にまみれた喫茶店に行った。私はカフェラテを、智起はアイスコーヒーを頼む。
「私、誰かと二人きりでこういうところに来たの初めて」
思わず零れてしまったのは、店内に流れる、懐かしさを感じるレコードのせいか、目の前に座る男のせいか。
「そうなの? 友だちいっぱいいるじゃん」
「いや、いるけど、なんていうか……。みんなでは行くけど、二人では行かない、みたいな。わからない?」
「わかるよ。怒るなよ」
「怒ってない」
怒りというよりも、恥ずかしさを紛らわせるための強がりだった。
「別にいいじゃん。今までそういう奴がいなかったのは、きっと今、俺とこうなるまでの準備期間だったんだよ。俺を待っててくれたんだ」
なんっだそれ。こっぱずかしくてカフェラテを一気に飲み干す。氷が大きすぎて、味が薄かった。
智起と時間を過ごすうちに、わかったことがある。私たちは、中学二年生のクラスメイトとは違って、過去を悔いて反省している。もう二度とあんなことにならないように、やり直したくてここに来たんだ。それなら、いがみ合ってないで、手を取り合うべきだ。
そうして私たちは、正しい人間になれた。私をそっちの方向へ導いてくれた智起と過ごす時間は、私にとってかけがえのないものになった。
「こんなこと、誰にも言えないと思ってたけど、なんでだろうな。麻子になら、なんでも言えちゃうよ」
昔の話をするたび、智起は私にこう言った。その言葉を聞きたくて、昔の話をするまでもある。
🏫
夏の足音が私のすぐ後ろをぴったりくっついてきているようなある日、いろんな偶然が重なって珍しくひとりで帰っていた私は、駅で、同じ制服を着た竹内さんを見つけた。
そのときもホームに人がたくさんいて、せっかく立ち続けて手に入れた並び順を手放したくなくて、ただぼうっと見ていることしかできなかったから、彼女はすぐに私が乗った隣の車両に吸い込まれていった。
最初は亡霊だと思った。私の妄想が生み出した、幻覚。
けれど私が、竹内さんの顔を、見間違えるはずがない。
「ねえ、この学校で、あんたよりかわいい子いる?」
隣の席のかわいい彼女こと曽谷糸生に訊くと、「え、なに、口説いてる?」と照れ笑いを返される。
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