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――というのは、全て起こってもいない私の心配事で、私が知っている竹内さんの性格を考えると、他人を陥れるようなことはしないはずだ。そんなこと、すぐにわかる。それに、彼女は私のことを「憧れ」だと言ってくれた。
こんなくだらないことを考えていないで、謝ればいいんだ。謝らなければならないんだ。今のままじゃ、昔と何も変わらない。また、自分の保身ばかりを考えて逃げているだけ。
それは、わかっている、けど。
「麻子? どうした?」
もう歩くのも辛くて、教室へと続く階段の途中でしゃがみ込んでいると、智起が私の顔をすくい上げてくれた。「泣いてるの?」と心配そうな顔で覗き込んでくる。
その瞬間、横を通り過ぎて行く生徒の煩わしい笑い声も、放送部が流す音楽も、全部消えた。私の耳に入ってくるのは智起の声だけで、やさしいシャンプーの香りしか感じない。
「泣いてない」
「でも、こんなとこで蹲って。腹でも痛い? 昼ごはん食べすぎた?」
「そんなに大食いじゃないし」
「嘘つけ。放課後にバーガー食べた後、夜ごはんも平らげるくせに」
「お母さんのお腹までデリカシー拾いに行った方がいいよ」
私の悪態を浴びても智起は、「よかった、いつもの麻子だ」と笑って頬を撫でてくれた。
わかってる。竹内さんに謝らなきゃいけないなんてことは。智起に、竹内さんが同じ学校だったことを言わなきゃいけないなんてことは。
でも、どうしても言えない。
だって、竹内さんは、あんなにもかわいい。
智起と竹内さんは幼なじみだと言っていた。少なからず智起は、竹内さんに特別な感情を抱いていただろう。じゃなきゃ、異性の友人が引っ越したくらいで、あんなに引きずったりしない。
今、どう思っているのかは知らない。でも、再会して、智起が竹内さんのことを好きになってしまったらどうしよう。そうしたら私の居場所がなくなってしまうんじゃないだろうか。私は、智起と一緒にいられなくなってしまうんじゃないだろうか。
どうして迷っているか、理由は一つしかない。私が、どうしようもなく、智起のことを好きだからだ。
🏫
すぐそこまで迫っていた夏は誰かに蹴飛ばされてしまったのか、しばらく雨が続いた。雨が降り続けている間、私はずっと悩んでいた。もちろん、智起に言えるわけもなく、家の自分の部屋で一人になった瞬間に、モヤモヤに襲われる。
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