パーフェクト・スモール・ワールド

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パーフェクト・スモール・ワールド

 ☀  木漏れ日の眩しさが消えた。不思議に思って顔を上げると、天使が微笑みながら俺を見下ろしていた。 「あ、ミスコン二位の先輩だ」  イヤホンを外しながら思わずこぼれた言葉に、先輩は「ちゃんと名前で呼んでよ」と頬を膨らませる。悪かったかな、と思い返事を探すけど、上手い言葉がみつからない。なんてったって俺はこの間、この人に告白されて振った男だ。 「いや、いやー……。名前で呼ぶほど仲良くないでしょう俺たち」 「じゃあこれから仲良くなろうよ」  俺が絞り出した言葉にはちっともめげない鋼のメンタルの持ち主である先輩は、より前屈みになって笑顔をぐっと近づけてきた。 「輪太郎くん、部活入ってなかったよね? 夏休みの学校になんか、なにしに来てるの?」 「なんでもいいでしょ」 「もしかして星野先輩の騎士(ナイト)? まだ脚治ってないんだ」 「ナイト? なんすか、それ」 「ほら、お姫さまとか守る人のこと。みんなそう言ってるよ」  な、んだ、そりゃ。  まさか、そんな似合いもしないあだ名がつけられていたとは、夢にも思わなかった。俺が姉ちゃんのお世話係を名乗り出てずいぶんたった今さらそんなことを知ってしまい、顔を赤くせずにはいられなかった。  それに姉ちゃんだって、大人しく誰かに守られるような柄じゃない。そりゃ、顔は、それこそお姫さまみたいに綺麗だと思うけど。この先輩より。なにせミスコン一位だし。 「えー、輪太郎くん、照れてるの? 可愛すぎ」 「まじでやめてくださいそれ。『みんな』にもぜひそう伝達を」  まじでの三文字をだいぶ強調しながら言ってみたけれど、先輩は笑ってばかりで、俺のこっ恥ずかしさなんてちっとも気にしてくれてはいないようだった。最悪だ。  変なことばかりを言う先輩だけど、俺が夏休みまで学校に来ているのが姉ちゃんのためっていうのは、間違いじゃない。脚の怪我をして松葉杖をついている危なっかしい姉ちゃんの送迎役として、今は姉ちゃんの受験対策の補習が終わるのを待っているのだ。 「かっこよくて、お似合いのあだ名だと思うけどな」
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