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結先輩からCDが返ってきたのは、私が結先輩に3冊目の本を借りた頃だった。
そのCDと共に渡されたのは、とても可愛らしい便箋と、「恥ずかしいから、帰ってみてね」という言葉だった。そんなの、帰るまで待てるわけがない。駅のホームで別れた結先輩が見えなくなった瞬間、行き交う人に邪魔されないよう階段の裏に駆け込んで封を開けた。
ラブレターでも入っていたらどうしようと、少し期待していた。
だけどそこにあったのは、期待以上の、感想文だった。
自分が心の底から良いと思って他人に勧めたものが、他人からこんなにも真心のこもった形で返ってくるという経験は初めてだった。それも、自分が好きな人からだ。さらに、感想文のラストを締めくくっていたのは、「あなたの大切なものを私も好きになれて、幸せです」なんていう口説き文句だったのだから、たまらなかった。本当に家に帰ってからこれを読んでいたら、私はその手紙をぎゅっと抱きしめて、ベッドから転がり落ちただけでは済まなかっただろう。
感想文を読み終えたところで夢は終わった。
カーテンを開けると、もう昼休みだと保健室の先生が教えてくれた。帰るかと聞かれたけれど「大丈夫」とだけ答え、私は急いで三年生の教室に向かった。ただ、結先輩に会いたかった。もう、約束をすっぽかしたことは責めないから。全部、悪い夢だったって忘れるから。だから、いつもみたいに優しく笑って、ただそこにいてほしかった。
結先輩の教室は静かで、少し覗いただけでピリピリとした空気を肌に感じた。これが結先輩の言っていた、勉強しないといけない人々の空気なのだろうか。
そこに結先輩がいないことはすぐにわかったので、次は屋上に行ってみようと向きを変えたら、花瓶を抱えた掛橋先輩とぶつかりそうになった。そういえば、園芸部の掛橋先輩は、教室にも時々綺麗な花を飾ってくれると結先輩が言っていた。
お互いに身体を避けた反動で、花瓶の水が少し零れた。掛橋先輩の土色に染まった指先を濡らした水が、重力に引かれて床に染みを作る。
「あ、ごめんなさい」
「大丈夫。花は無事だし」
掛橋先輩は濡れたことも気にせず、大切そうに花瓶を抱え直した。すると急に、気にしないでと微笑んでいた掛橋先輩の口角が下がり、私を覗き込むように身体が傾いた。
「あの、曽谷ちゃんは、大丈夫?」
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