クラウド・ナイン

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 放課後、それぞれの友人と放課後の過ごし方について盛り上がっていた私と安達を捕まえたのはやはり担任で、その、人当たりのよさそうな面倒見がよさそうな微笑みがもはや大嫌いだなと思った。  空き教室は、昨年度の大掃除のときから使われていないらしい。それが、今年度から学年のクラスが一つ増え、急遽使用することになったようだ。引っ越したばかりの一人暮らしの家のように、段ボールで溢れ返っている。 「段ボールは教室の後ろの方に積んでくれたらいいよ。で、終わったらこれよろしく」 「何ですかこれは」  先生が抱えていた分厚い紙の束とその上に積まれたホッチキス二つを、何の躊躇もなく安達が受け取る。私はその様子に、舌打ちをしそうになるのを必死に我慢した。 「明日の英語の授業で使う資料。委員が決まらなかったおかげで先生はやることに追われてるんだ……というわけで、資料の作成もよろしくねー」  私たちの文句を聞く前に、先生は一目散に逃げて行った、ように見えた。  安達は教卓の前の机の埃を払い、そこに紙の束を置く。「じゃ、俺が段ボール移動させるから、木下はこっちよろしく」  安達の言い方は、私には「女は足手まといだからこっちやってろ」という風に聞こえるので、「いい、私も運ぶ」と反論しようとした。しかしよく考えれば、安達の提案に従う方が一秒でも早く帰れる気がしたので、素直に頷く。  安達に背を向けて座り、資料をホッチキスで止める。埃っぽい教室には、カチン、カチン、とホッチキスの針が紙を刺す音と、安達の少し乱れた呼吸音しか存在しなかった。だからこそ、余計に敏感に感じ取ってしまう。 「ねえ、ちょっと」 「ん? なに」 「さっきからこっち、ちらちら見すぎ。気になる」  振り返ると安達と目が合う。驚いたようで、目も口も開いている。 「背中に目、ついてる?」 「なわけない。何か言いたいことがあるなら、はっきり言えば」  安達は口ごもった。いつも、両手じゃ数えきれないほどの友人とは、楽しそうに何でも言い合っているというのに。私は鬱陶しさのあまり、私らしくないことを口走ってしまう。 「安達ってなんでこの高校受験したの? あんた、いっつも中学の友だちと楽しそうにしてたじゃん。てっきり私は、そいつらと同じ高校に行くんだと思ってたんだけど」
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