ラスト・エブリデイ

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 🎬  臆病で、慎重で、繊細で、さっきまで楽しそうにしていたのに、次の瞬間には屋上から落ちてしまいそうなほどに不安定だった結先輩は、あの日以来生まれ変わったようだった。  私と二人きりの時に愛情を最大限に注いでくれるところは変わらない。ただ、周囲の目があるところでも、私との親密さを隠そうとしなくなった。  登下校も当たり前のように一緒にするし、昼休み以外も時間を見つけて一緒に過ごすようになった。授業中にもかかわらずうちのクラスの前をうろついて、私がそれに気づくと無邪気に手を振ってくることだってある。  そうなると私の方が逆に面食らってしまって、周囲の目を気にし、あたふたとするようになってしまった。なんという逆転現象。まあでも、結先輩が楽しそうだし、これまで知らなかった結先輩の一面を知れるのは素直に嬉しいし、良かったのかなとも思っている。  ただ、悪戯が増えた所に関しては、ちょっと困っている。この間も移動教室の途中に突然廊下の角から現れて、うっかり腰を抜かしそうになったばかりだ。  🎬 「あの、すみません、落としませんでしたか?」  声をかけられて振り返ると、すごい美少女が私の大切なバスターくんのキーホルダーを持っていた。これまで鞄からはずれたことはないし、もしかしてまた結先輩の悪戯か。美少女にバレないようにこっそりと隣の結先輩をにらみつけると、結先輩はにやにやと笑っていた。やっぱり、犯人はお前だな。 「これ、バスターくん、でしたっけ」 「え、知ってるの? もしかしてシュガーズ好きなの?」  また同じ学校でシュガーズファンに出会ってしまったかと嬉しくなって詰め寄ると、やや顔を引きつらせながら美少女が一歩下がった。 「あ、いや、私じゃなくて、大事な友達が同じの持ってて」  何も悪くないのに「ごめんなさい」と謝って、美少女は足早に去って行った。その背中も見えなくなった頃、そういえばあの美少女は、八組の竹内美月だったなと気づいた。もう栞奈とは仲直りできたのだろうかと考えながら、彼女のいない廊下をぼんやりと見ていると、突然視界いっぱいに結先輩の顔が広がった。 「わ!」  思わず大きな声を出してしまい、慌てて周囲を確認。誰もいなくてほっとする。だって、こんなことで注目を浴びたくはない。 「もう、やめてくださいよ。急に驚いたところ、誰かに見られたら恥ずかしいじゃないですか」 「ごめん、ごめん。でも驚いた糸生ちゃん、可愛かったよ」 「ていうか、これ落としたの結先輩でしょう。私が大切にしてるの知ってるくせに。落としたのに気づかずに誰かに盗まれたり、捨てられたりしていたらどうするつもりだったんですか」 「糸生ちゃんに気付かれずにできるかなって、つい好奇心で。もちろんすぐに拾うつもりだったよ。でも、ごめんなさい」
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