ラスト・エブリデイ

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 結構本気で怒っていたのに、年下の私に怒られて、小さい子みたいにしゅんとする先輩が可愛すぎて、つい笑ってしまう。結局すぐに怒りは消えた。 「糸生ちゃん、今の子のこと、気になるの?」 「え?」 「ずっと見てるし、本当はああいうかわいい子が好みなのかなって」  結先輩が眉間に小さくしわを寄せ、いじけたような顔をされたものだから、驚いて目を見開く。  結先輩の表情がころころと変わるのはいつものことだけれど、嫉妬心を隠されなかったのは初めてだった。私のために唇を尖らせる結先輩が、愛おしくてたまらない。潰れるくらいに抱きしめて、一つに溶けあってしまえたら良いのにと思うくらいにはときめいたけれど、場所が場所なのでゆっくりと息を吐いてなんとか平常心を保つ。 「そうじゃないですよ。この間、あの子がらみでちょっと相談を受けたんです」 「相談ってどんな?」  相談をしてきたのは、竹内美月と同じクラスの末次栞奈だった。相手の特定を避けたかったからか、栞奈は個人名を出さなかったけれど、間違いないと思う。  だって、“同じクラスで仲が良く、守ってあげたくなるくらいかわいくて、ほんとにいい子”なんて説明されれば、誰だって気づく。  ただ、栞奈の性格を考えれば、心から真剣に悩み、相手を気遣い、ばれないつもりで名前を伏せていたのがわかるから、私も気づいていないふりをしておいた。  竹内美月には、いじめられていた過去がある。そしてそのいじめの主犯格は、学校外で繋がった栞奈の友人の一人だと最近知ってしまった。それ以来栞奈は、竹内美月を傷つけたくないがゆえに過剰に言動を気にしてしまうなど、何も知らなかったころとは同じように振る舞えず、ぎくしゃくしているのだと。 「喧嘩もいじめもなく、全人類が仲良く楽しく平和に生きていく方法って、ないものですかね」  私より二年分多くの人生を知っている先輩へ、なんとなく問うてみる。なんとなくではあったが、栞奈と友だちが仲直り出来ればいいと思っているのは本当で、あわよくば人生の先輩からアドバイスが貰えればいいな。そんな私の期待を知ってか知らずか、結先輩は「あるよあるよー」と何とも軽く返してきた。 「誰か一人がすごいいっぱい我慢して、潤滑剤になること」  薄っぺらい笑顔を浮かべたまま、結先輩は続ける。 「喧嘩とかいじめとかって、結局ストレスが原因で起こるものなんだよ。他人からわかってもらえない、受け入れてもらえない、理想の自分との乖離、その他諸々のね。だから、誰か一人がすっごく我慢して、あなたのことを私はすごくわかってるよって顔して話を聞いてあげたり、空気がピリッとしたら和ませてあげたり。そういう、ストレスをコントロールしてあげられる存在がいれば、そんなの起きないんだよ」
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