ラスト・エブリデイ

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 にやりと目を細めた麻子が、肘で二の腕辺りをつついてきた。自然に笑えたか不安になって、そっと右手で頬のあたりに触れる。私ってば、恋人ができたこと、誰にも言ってなかったんだな。今さらそんなことに気づき、動揺した。  全ては結先輩を気遣い、結先輩のためにそうすべきだと信じてやってきたことだった。だけど今は、自己満足で物分かり良くふるまってきた証拠を目の前に突き付けられたようで……。なんだか憑りつかれたみたいに体が重い。 「えっと、もうすぐいなくなるってことは、卒業とか? 彼氏、三年生?」 「やだ、よくわかったね」 「たらればばっかりって、最近彼氏に何か不満を言われたとか?」 「ううん、何も。むしろ以前にも増していちゃついてくる」 「結局のろけじゃん」  麻子の言葉に、曖昧に笑う。そんな私の様子から、ちゃんと悩んでいるんだなと察してくれたのか、麻子は声のトーンを落としてごめんと謝った。 「彼氏が何も不満を言わないなら、間違ってはないんじゃないの? 何があったのかも、どうしてそんなに糸生がひっかかっているのかも私にはよくわからないから、それが正しいことだよってはっきり自信は持てないけどね」  数メートル分悩んでくれた麻子が出した答えは、私の悩みを消し去るものではなかった。それは当たり前だ、はっきりと詳細を伝えたわけでもないし。だけど、正解じゃなくても間違ってはいないかもしれないという意見は、少しだけひっかかりを小さくしてくれた気はした。 「ていうかさ、ラブラブなんでしょ? 一人でうだうだしてないでさ、離れ離れになっちゃう前に、ちゃんと本人と話し合いなよ。ほんと、言葉にするって大事だよ。私みたいに男運があんまりない女から言えるアドバイスなんて、それくらいかな」  そういえば麻子は、クラスメイトの安達くんと付き合っていると噂されていて、本人も否定していなかったのに、気づいたら別れていた。原因は、安達くんの浮気とか二股とか、とりあえず安達くんが悪者であるような噂が流れていたけれど、安達くんと麻子の人柄もあってか、それも時間と共に消えていった。  自虐的な言い方をしながらも、麻子は全然未練がある風でもなく、からりと笑った。正直夏から秋頃はふとした瞬間に安達くんを目で追っていたり、ぼんやりとしていたり、心配になることもあったけれど、ちゃんと乗り越えたんだなと感心した。私は、結先輩を失った時、こんな風に乗り越えられる日が来るのだろうか。
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