ラスト・エブリデイ

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 駅のホームで麻子と別れたところで、結先輩に声をかけられた。驚いたけれど、安心の方が勝った。 「そばにいたなら、一緒に帰りたかったです」 「最近の私、糸生ちゃんのこと、独占しすぎてたし。友達同士の時間も大切だからね」 「どうせ麻子は気にしないのに」  私が不満げに言うと、結先輩は困ったように眉尻を下げた。 「……もしや聞いてました? 私たちの話」 「ううん、聞かないように離れてたよ」 「聞いてもらってもよかった。むしろ聞いてもらいたかったかもしれない」  口調が強くなる。私たちのそばを通り過ぎる人たちの、ぎょっとしたような視線が刺さる。 「ちょっと場所、変えましょう」  とりあえず駅を出て人の少なそうな方向に歩いていると、すぐに小さな錆びれた公園を見つけた。薄暗くて、狭くて、ここをめがけて遊びに来る人なんて長いこといなさそうな場所。それでいい、私たちには丁度いい。ベンチもなかったから、とりあえず唯一の遊具であるブランコに腰掛ける。 「結先輩、あの日を境に人が変わりましたよね」 「うん、そうだね」  先輩の声は、とても穏やかで自然だった。凪いだ海みたいな声色はきっと、無理して変わったんじゃないからこそだと感じた。やはり私が、相手が私だったせいで、結先輩は自分を解放できずにいたんだ。その結論が、身体の内側からどこまでも主張してくる。 「やっぱり今の結先輩の態度が、本当はずっとそうありたかったものなんですか? 私は、結先輩がずっと前からこうなれるように、もっと踏み込んでいった方が良かったんですか?」  押し出された思いは、縋る様な声になった。耳に届くのははっきりとした言葉だったのに、感情のままに放たれたそれは、悲鳴みたいに嫌な痛みを残した。 「本当はずっと今みたいになりたかったよ。でも、私は人の目を気にしちゃうから。たとえ糸生ちゃんが踏み込んでくれていたとしても、あんまり変わらなかったんじゃないかな」  結先輩がゆっくりと息を吐いたのが、聴覚だけでわかった。顔をあげると、私と目が合った結先輩は、ふわりと力を抜いた。 「今は糸生ちゃんの目しかないし、この先のことなんて考えなくていい。感情の赴くままに行動できる。こんなの初めてだから、正直、今の方が気楽で楽しいよ。だから糸生ちゃんは、何も気にしなくていいんだよ」    結先輩の言葉に、眩暈がする。 「今の方が、気楽で楽しいって」  それは結先輩が、私を気遣って、大げさに言ってくれた言葉なのかもしれない。私と共に過ごした日々の、私の結先輩への接し方を否定しないように、今の気持ちを軽くしようとして選んでくれた言葉なのかもしれない。結先輩はそういう人だ。疲れるくらいに、どこまでも、自分じゃなくて、相手を気遣おうとする。
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