ラスト・エブリデイ

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 そして現実を受け入れられなかった翌日、結先輩は、何事もなかったかのように私の前に現れた。初めは、私の想いが強すぎて幻覚を見ているのだと思った。だけど違った。俗に言う、幽霊という形のものだった。声もしっかり聞こえる。姿もはっきり見える。ただ、触れることはできなかった。  結先輩が死んでしまったということは事実で、私にしか見えない形ではあったけれど、いつだって近くで結先輩が笑ってくれるのは、嬉しかった。  事故死なんて悪い夢のような気がした。だけど最近、結先輩の色がだんだんと薄くなっている。気のせいだって、誤魔化すレベルを超えてしまっていた。どうしてこういう形で私のそばに戻ってこられたのか、いつまでこうしていられるのか、結先輩もわからないと言った。  私は、一人だけ特別に結先輩と過ごす時間をもらった代償に、結先輩を二度も失う恐怖を常に抱えることにもなった。結先輩には、私のこんな気持ち、わかるわけがない。わかっているなら、あんな残酷な台詞がでてくるわけがない。涙が、止まらなかった。私の感情を制御する部分は、とうに壊れていた。  🎬  嬉しくて、空も飛べそう。  そんな表現を初めて聞いた時は、何だそれとばかにした。だけどそれは、言い得て妙であったと知ることになった。 「私も、糸生ちゃんが好き」  恥かしさを誤魔化す様に、へへっと幸せそうな笑みを添えて結先輩がそう言ってくれた時。私の頭の中は真っ白になって、体中が幸せだけに満たされて、重力だって消えちゃって、窓の向こうに見える入道雲のように、気を抜くとふわふわと天高く舞い上がってしまいそうな気がした。  私と結先輩の関係が、先輩と後輩という関係を卒業したのは、何の変哲もないとある夏休みの一日だった。真っ青な空に浮かぶ太陽はいつも以上にまぶしくて、通りすがりに見た向日葵たちも、太陽に向かってより一層胸を張りアピールしているように見えた。  結先輩が、新しく素敵な本と出会うために本屋に行くと言うので、私も行きたいと伝えた。結先輩は、私が本になんてちっとも興味がないことは分かっていたはずだけれど、一緒に行こうと微笑んでくれた。
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