ラスト・エブリデイ

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 あの全校読書会の日から、結先輩との距離は着実に詰められていて、結先輩が私に向けてくれているもの中に、可愛い後輩としての好意が確実にあることはわかっていた。  だって、視界の隅っこに見えただけで駆け寄ってきて手を振ってくれたり、隣通しに座る時にシャンプーや柔軟剤の香りがわかるくらいに距離を詰めたり、さよならのタイミングでとても寂しそうに口角を下げたり、借りたものに毎回丁寧な感想と相手が好きなお菓子を添えたり、そういうのは好きでもない子にはしない。  ただ、そこに恋愛感情を含むものがあるかは判断がつかなかった。  だけど、可能性がないわけじゃないと思えるくらいにはなっていた。  というか、結先輩の性格からして、私を好きだと思っても、いやいや女の子だし、と感情を打ち消す努力をするだろうと思った。だから可能性があるのなら、結先輩の努力が報われてしまう前に、タイミングを見計らって勢いで押せばいけるんじゃないか、なんて考えていた。  結先輩が本を選んだあと、もう解散なのかなと寂しく思っていたら、そんな私の気持ちを察してくれたのか、「うちにきて、ちょっと涼んでいく?」と結先輩が誘ってくれた。  人目のない場所で先輩と二人きりになって、鼓動がいつもよりも耳に響いて、身体の内側と夏の気温の両方からくる熱に頭がやられて、勢いに乗った。拒絶されたって押しきってやるくらいの気持ちで、何度も心の中で叫んできた言葉を告げた。そして、だ。 「私も、糸生ちゃんが好き」  結先輩も多分、夏にやられていた。抵抗力が弱まっていた。だから私の想いが、伝染病みたいにうっかりうつってしまったのかもしれない。  思いがけない結先輩の答えに、まず驚いて、それがすぐにこれまで味わったことのないような幸福に変わった。結先輩が私を選んでくれるなら、私だけを見てくれるなら、私は絶対に、何者からも結先輩を守ってみせる。そう心に誓いながら結先輩を抱きしめた瞬間から、私の未来は全て目が眩むような輝きで満たされた。本気でそう思っていた。  🎬  結先輩を置き去りにしてから一週間経った今日も、結先輩は私の前に現れなかった。天に召される時期が来てしまったのかもしれない。最期の瞬間が拒絶になったことは、完全なる自業自得だけれど、悔いが残る。だけど元はといえば、結先輩が悪いのだ。最愛の相手に、あんな言葉を投げられて、冷静でいられる方がおかしいと思う。私の後を追いかけても来なかったし。うん、やっぱり結先輩が悪い。あんな薄情なやつ、知るか。
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