ラスト・エブリデイ

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 結先輩がその気なら、私だってやり返してやる。もしかしたら、まだどこかから私の様子をうかがっているかもしれないし、それなら同じダメージ、いやそれ以上のダメージでも受けてもらいたい。何がいいんだろう、浮気とか? 私が誰かと二人きりで喋ってたら、通りすがりに寂しそうな顔してたこと、ちゃんと知ってるもんね。浮気相手、誰がいいかな。結先輩も知ってる人の方がダメージが大きいかな。そして私は、狙いを定めた。  花壇には今日も例にもれず掛橋先輩がいた。  今はただ花壇を眺めているだけのようなのに、しゃがんだ膝に置かれた指先は、相変わらず土色に染まっていた。常に爪の間に土の挟まった変わり者だ、なんていう噂が一年生のところにまで流れてくる掛橋先輩との関わりは、結先輩と三人で少し他愛のない会話をした程度だった。二人きりでちゃんと話したことは、そういえば一度もない。  隣に人が立ち止まった気配に顔を上げた掛橋先輩は、私であったことを認識してわずかに表情を和らげた。 「よかった」 「何がよかったんですか」  同じようにしゃがみこむと、「思ったより、元気そう」と呟くように掛橋先輩が言った。思ったより元気そう、ということは、掛橋先輩は、私が元気をなくす状況にあるとわかっていた。やはり掛橋先輩は全部知っていて、掛橋先輩は結先輩にとって特別だったんだという思いが、よりはっきりと輪郭を持ち心を蝕んだ。 「私、掛橋先輩が羨ましいです」 「え?」 「掛橋先輩は、結先輩にとっての潤滑剤だったんですよ。結先輩が、私と付き合っていることを先輩に話したのがその証拠です」  結先輩にやり返したくて掛橋先輩に会いに来たのに、結局私がダメージを受けてしまうとは。その上、何も悪くない掛橋先輩に八つ当たりをするような口調になってしまい、ばつの悪さを誤魔化すように、足元の土に指先を走らせた。掛橋先輩の指を汚しているのとは違う土で、違いなんて見た目には分からないくらいに私の爪の間も汚れた。 「えっと、あの、初耳なんだけど」  少し言葉に詰まってはいたけれど、本当に初耳なのかと疑いたくなるような、普段とあまり変わらない声色だった。土いじりをやめて先輩を見つめると、確かに目は大きく見開かれていた。 「本当に初耳だったんですか?」 「初耳だったよ。だけど、もしかしたらそうかもなとは、勝手に思ってた。もしくは、菅原の片想いかと」  今度は多分、私の目が丸くなっていた。掛橋先輩はふっと笑って、またすぐに花壇を向いた。
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