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答えは返ってこないだろうなと思っていたし、求めてもいなかった。安達がどんな思惑でこの学校に来ようが、私がひとりになれなかったという事実は変わらない。
私に何の得もない、他人の事情を知ろうとするなんて、実に私らしくない。
「竹内美月って覚えてる?」
安達の口から出た彼女の顔は、思い出さなくてもいつも頭の中にある。
「覚えてる」
「たぶん、きっかけはあいつ。俺、中学の同級生の誰とも、もう関わりたくないと思った」
「ふうん」
ということは、安達もあの瞬間、私のことを心の底から恨んだに違いない。
🏫
四月が終わる頃の放課後、クラスで集めた英語の課題を職員室に持って行った際、
「副委員長ってつまり、先生の召使ってことですか」
とチョコレートの包み紙を開けた先生に問うと、
「まさか! 今日は四月二十八日じゃないか。二足す八は十、つまり出席番号十番木下麻子の日ってわけ。たまたまだよ」
とゴミ箱に投げようとした紙で包みなおしたチョコレートを握らされた。
先生のおかげで友人と遊びに行く放課後が一日減ったわけであるけれど、口で言うほど腹立たしく思っていなかった。この時期にできた友人と遊びに行くというのは、わりと、疲れる。
教室に戻る間に、チョコレートを口の中で舐めて溶かす。いつの間にか、廊下には人がほとんどいない。通り過ぎる教室からも、ささやかな話声しか聞こえない。グラウンドと体育館だけが賑やかだった。
もう誰もいないだろうな。そう期待して教室の扉を開けると、安達がいた。ちょうどカーテンの隙間から、安達だけに西日が差し込んでいる。
オレンジ色の光に包まれながら頬杖をついている安達は、そのまま光の方向に吸い込まれて行ってしまいそうに見えたので、思わず声をかけてしまった。
「何やってんの」
「時間つぶし。電車、人身事故で遅延してるらしいから」
「人身事故……」
「そう。木下もさ、阪神線乗ってるだろ? ここで休んでいきなよ」
屈託のない笑顔は、私の心をざわつかせる。私は安達の斜め後ろの席に置いていた鞄を取り、背を向ける。
「いや、私、JRだから」
「まじ?」
「まじ」
「なるほど、会わないわけだ」
「そうだね。あんたもJR使って帰れば? とりあえず、明石まで乗ればいいじゃん」
「おー、木下、頭いい。そうしよっと」
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