ラスト・エブリデイ

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「だって、曽谷ちゃんと関わるようになってから、菅原は、花が咲いてるみたいっていうか、見るからに幸せそうだったから。そうだな、曽谷ちゃんを見つめる眼差しの温度とか、曽谷ちゃんを守るように前を歩く姿とか、そういうの。見てたらわかるよ」  私の感情は、掛橋先輩の観察眼ではわからないくらいに上手く隠せていたらしく、両想いか片想いかは確証が持てなかったらしい。なんだ、私ってば、気合を入れすぎてたな。結先輩を守る気合を。  たとえ掛橋先輩たった一人だけにだったとしても、私たちにそんな風に見えている瞬間があったのだと知って、とても嬉しくなった。嫉妬なんてしぼんで、ただ嬉しくて、幸せで、それ以上に、寂しくなった。 「私は協調性がなくて、常に誰かといるのは苦手。菅原はこんな私のこともわかっていて、良い距離を保って付き合ってくれた。だから、なんだか誰かに話を聞いてほしいって時は、ここで一気にしゃべったりもしてた。どこにも属さない私だから、菅原もしゃべり易かったことがあるのかもしれない。それが、曽谷ちゃんのいう潤滑剤? に見えて、気分を害していたなら、申し訳なかったよ」  私につむじを見せた掛橋先輩に、慌てて頭をあげてもらった。申し訳ないのはこっちだ。八つ当たりした上、慰めてもらい、さらには全然悪くないのに謝らせている。最低だ。  ふいに訪れた無音の間に、初めてちゃんと、掛橋先輩が育てあげた花を見つめた。赤、赤紫、ピンク、橙、青、白、黄。背丈は低いが、鮮やかな花は、冬の寒さをものともせず、誇らし気に咲いている。 「掛橋先輩、これは何ていう花ですか?」 「プリムラ・ジュリアン。花言葉は、青春の喜びと悲しみ」 「青春の喜びと、悲しみ」  言葉を舌で掬い取るように、繰り返す。ふと視線を感じて左側を見ると、掛橋先輩が私を見ていた。だけど私と目が合うと、さっと花の方に視線を戻されてしまった。 「掛橋先輩が卒業したら、園芸部はどうなるんでしょうか」  たしか掛橋先輩は、最後の一人になった園芸部員だと聞いた気がする。もしも掛橋先輩が、後は頼むと押し付けるような勢いで私を園芸部に勧誘してくれるなら、それもありかと少し思った。花のお世話なんてしたことはないけれど。私の気持ちを知ってか知らずか、掛橋先輩は首を横に振った。 「このままいくと廃部かな。ただ、世話をしたって咲かない花はあるし、世話をしなくたって咲く花もある。それに、園芸部がなくなっても、生徒でも先生でも気候でも、花壇を想って水やりをしてくれる人はきっといると思う。だから、花たちがどうなるかはわからない。とりあえず、私がいないといけないわけではないだろうね」
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