ラスト・エブリデイ

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 ポツリポツリと、平坦な声でひとりごちるように。掛橋先輩は、結先輩とは反対に、感情をあまり込めないような話し方をする。それが今は逆に、心地よく聞こえる。 「代わりのきかない役割って、きっと、あんまりないよ。寂しいけど、私も曽谷ちゃんもいつか、菅原じゃない誰かと一緒に笑ってるの」  一見棘の鋭い言葉が、私の心の暗い部分を刺激する。だけど、言葉足らずな掛橋先輩の言葉を反芻するうち、足りない部分がなんとなく見えてきて、私はそっと感情的な言葉を飲み込んだ。多分、掛橋先輩も私と同じなのだ。関係性は違えど、結先輩という大切な人を失ったのだから。きっと掛橋先輩は、私を励まそうとしている。もしかしたら、掛橋先輩自身も。 「そっか、うん。きっとそうなんでしょうね。ほんとに、寂しいですけど」  私と掛橋先輩の時間は、結先輩を失った前後で何も変わらない速度で進む。ぽっかり空いてしまった心の穴はきっと、結先輩のいない時間を重ねる中で、私たちを取り巻く環境が変わる中で、形を変えて行くのだろう。掛橋先輩が言うように、代わりのきかない役割があまりないというのは、間違いじゃない。 「掛橋先輩、お願いがあるんですけど」 「なに?」 「その、掛橋先輩が言うような未来を受け入れるための第一歩っていうか、いつかは前を向かなきゃなとは思うんですけど、その準備っていうか」 「うん」 「結先輩のこと、一緒に語り合ってくれませんか」  これまで誰にも話せなかった結先輩とのこと。私しか知らない結先輩のこと。私の内に一生抱えたままでは、きっとその重みで動けないままな気がした。 「うん、いいよ。私も誰かと、菅原のこと話したいと思ってた」 「そうでしたか」 「じゃあ、そうだね。んー、私しか知らないであろう菅原の可愛いところなんだけどさ」 「いや先輩、そういうとこですよ」 「え?」 「いやその、私が恋人だったって知ってるなら、もう少し気を遣っていただいてもいいのでは。ほら、まず先に沢山話したいことあるだろうなとか、私に話してくれる内容だとか……いや、まあいいです。掛橋先輩の話を聞いた上で、それよりもずっと可愛い結先輩のエピソード、ボリュームたっぷりにお伝えしますので」 「倍量倍キュン返しかあ」 「倍なんて甘すぎますよ。覚悟してくださいね、掛橋先輩」  今は、結先輩を失って開いた穴を誰かや何かが埋めてしまうことを寂しいと感じるけれど、きっといつか、それが寂しいだけじゃなくなる。そうなることを良かったと思える日が、いつかくるといい。私にとっても、掛橋先輩にとっても。
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