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「私はこういう性格で、その殻を破ることはどうしてもできなかったけれど、本当はずっと誰にも隠さないで、人前で堂々と糸生ちゃんと一緒にいたかったよ。私はこの子が好きで、この子と両想いで、とっても幸せなんですって、見せびらかしたかった。多分そういうことだと思って、やりたかったこと、全部やった。そしたら、なんとなく、もう長くはここにいないんだろうなって感じがした。色も薄くなってるし」
ほら見て、と結先輩が、両手を空に透かした。結先輩の手のひら越しに見えた色に、最期が迫っていることを悟った。それはきっと、結先輩も同じだった。
「結先輩、これだけ教えてください。結先輩は生きている時、私と付き合って本当に良かったと思っていますか? 後悔してはいませんか?」
「ここまで言わせておいて、今更そんなこと聞くの? 糸生ちゃんは他人の気持ちを察するのが上手いと思っていたけど、勘違いだったのかな」
茶化すように結先輩が笑う。きっと、私のために、笑っている。その優しさは十分に伝わってきたけれど、私には、結先輩みたいに笑う余裕なんて、もう、どこにもなかった。
「糸生ちゃんがいなかったら、多分、死んだことに嬉しいも悲しいもなかったよ。辛いけど、仕方ないってすぐ受け入れたと思う。糸生ちゃんはね、私にとって光であり闇でもあった。希望も悩みも、味わったことない難しい感情も、辿れば全部糸生ちゃんから生まれてた。糸生ちゃんは、私の全部だったんだよ」
結先輩らしい言葉選びに、好きが、溢れる。いっぱいいっぱいだった。顔を覆って泣き崩れたかった。だけど、今一瞬でも目を逸らせば、全てを目に焼き付けなければ、私は一生後悔する。だから必死で両脚に力を入れ、その場に立つ。瞬きも絶対にしない。最期に結先輩に見せる顔がぶっさいくな泣き顔なのも嫌だ。
「糸生ちゃん、怒ってるの?」
「え?」
「人がせっかく愛をこめて告白してるのに、怖い顔してるから。可愛い顔が台無しだよ」
「人が必死になっているときにそういうこと言うんですか。悪趣味ですね」
結先輩が安心して逝けるようにという気遣いが分からないのか。
「だって必死な糸生ちゃんがいじらしくて、可愛くて。ほら、好きな子ほどいじわるしたくなることってあるじゃん」
「それが許されるのは小学生までです」
「あれ、そうなの?」
「そうです」
おかしそうに口を開けて笑った後、ふうと息を吐いた結先輩が、真剣な顔で再び私を見据えた。
「糸生ちゃん、出会ってくれて、ありがとう。声をかけてくれて、ありがとう。好きになってくれて、告白してくれて、ありがとう」
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