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竹内さんと一緒にいたグループで、いちばん威張っていたのが千田さんだった。状況が変わったのは、千田さんの好きな人が、竹内さんに告白をしてからだった。
千田さんから竹内さんへの矢印が、「好きじゃない」から「大嫌い」に変わった瞬間、クラスの空気も変わった。別に、彼女が嫌っていない相手なら、自分たちも右に倣えする必要はないけれど、大嫌いならそういうわけにはいかない。私たちはみんな、竹内さんのことを無視した。
その、「たち」に私も含まれているのが嫌で嫌で仕方がないのだけれど、かといってそういうことになってから、私が竹内さんに話しかけたかというと、記憶にない。話しかけられれば答えていただろうけれど。本当に?
クラス全体が味方に付いたことに気づいた千田さんたちによるいじめは、徐々にエスカレートしていく。初めは無視だけだった。いないものとして扱われるのならまだましだったのかもしれない、と私は思う。
いつしか、竹内さんの教科書はなくなり、上履きは土まみれになり、半そでの体操服に着替えるときに見えた体には、小さな痣ができた。
私は何もしなかった。
いつから竹内さんが学校に来なくなったのかは覚えていない。ただ、気づけば彼女はいなくなっていて、三学期になると「竹内さんは転校しました」と担任に教えられた。それで、終わり。きっと、大多数が罪の意識を覚える前に、彼女の存在は思い出から無理やりかき消された。
「あのさ、私たちのクラス、体育祭とか合唱コンクールとか優勝してたじゃん。その度千田さんたちが『仲良しクラスー』っていうのも、先生たちが『一組は団結力がある』っていうのも、気持ち悪くて仕方なかった」
「俺もだよ」
「私も中学のクラス、大嫌いだった。だから安達と一緒で、私のことを誰も知らない場所で生きたかった」
安達の同意がないまま、「でもそれは、もしかしたら、ただ逃げているだけでは?」とどこからか声が聞こえた気がする。
「俺もクラスは大嫌いだった。でもそれよりも、自分のことが嫌いだった」
「自分? なんでよ。安達なんて、すっごい自分のこと好きそうじゃん」
安達は苦笑する。
「嫌い、大嫌いだよ。許せないんだ。美月の手を振り払ったことを」
「美月」
「俺と美月、幼なじみなんだ」
「へえ」
どうでもいいので大して驚かなかったが、ふりはしておく。
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