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5 涙が出るほど、君が
その翌日から、燎とは徐々に言葉を交わすことが減っていった。
目が合っても、必ずどちらかが視線を逸したり、どちらかが声をかけようとしても、片方が避けたりして。
本当は俺も好きなんだと言えばよかったと何度も後悔して、何度もそんなのは無理だと言い返す自分の声が響いた。
そうして葛藤しながらも、時間は無情なほど早く流れ、ある日風の噂で、燎と谷村美希という下級生の女子と付き合っているという話を聞いた。
さらには、燎がクラスメイトと進学先の話をしているのを偶然耳にして、東京の大学に進学してしまうらしいと知った。
俺はどんどん遠くに行ってしまう燎に寂しさを覚えつつも何もできないまま、流れゆく時間に身を任せるばかりで。
それなのに、気が付けば、帰って一人きりになると、燎のことを想って泣いていた。
大和の言葉に傷付いた時の比じゃないぐらいに、泣いて、泣いて、泣きまくって、全身の水分が全てなくなるまで泣いて。
そんな日々に耐えられなくなりつつあった時だった。
「……?」
不意に、涙で滲んだ視界に、スマートフォンのランプがメッセージの受信で点滅しているのが映った。
鼻をすすりながらスマートフォンを手に取り、画面を覗いた俺は、目を瞬く。
「え……?」
発信者は意外な人物だった。
「梶原先輩……?」
同じ部活に所属していた時、連絡用に部員でグループラインを作り、入っていてそのままになっていたのを思い出す。
きっとそこから俺のことを友達追加したのだろうけど、どうして今さら?
不思議に思いながらメッセージ画面を開いた俺は、その内容に言葉を失くした。
そこには、こう書かれていた。
「椎葉、本当に今さらになってすまないが、あの時の告白に、あんな返事をして、椎葉を傷つけてすまなかった。あの直後、実は椎葉がいない間に、椎葉の友達とかいう男が来て……。天野だったか?そいつが、鬼気迫る顔で椎葉に何があったか聞いてきて、勢いで正直に話してしまったら、物凄い形相で怒ってきてな。男が男を好きで何が悪い、俺の好きな人を傷付けるのは許せないって」
メッセージを何度も読み返し、丸暗記するほど読み、驚いて引っ込んでいた涙が、再び溢れ出した。
「燎、俺……お前が……」
もう、好きだと言っても仕方ないかもしれない。それでも、俺は。
覚悟を決め、涙を拭う。
明日の卒業式を逃したら次はない。振られてもいい。俺の本当の気持ちを伝えるんだ。
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