10年目の再会

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 二十分後、遠山と沙也加は渡教授の研究室に座っていた。渡が椅子ごとくるりと机から振り返って、あごひげを手でしごきながら遠山に言った。 「また厄介事を持ち込んで来たかと思ったが、助手はいるに越した事はない。いいだろう、稲垣君だったな、同行を許可しよう」 「ありがとうございます!」  沙也加が深々と頭を下げる。遠山はにっこり笑って、安堵の表情を浮かべた言った。 「よかった。難物を説得する手間が省けた」  渡が目玉をぎょろりとさせた。 「誰が難物だと?」 「あ、いえ、何でもありません。じゃ渡先生、彼女をよろしく」 「他人事みたいに言うな。君も一緒に来い。教務部には私から話を通しておく」 「は? なんで僕が一緒に?」 「私は妻帯者だ。女子学生と二人きりで山奥へ行くわけにはいかんだろうが」 「いえ、あの、僕は生物学者なんでフィールドワークは苦手で」 「生物学者ならなおさら野外活動は必須だろうが! 海洋生物学の教授陣は60歳過ぎても岩場を駆け回っとるぞ」  沙也加がおずおずと渡に言う。 「あの、それで厚かましいのですが、途中で寄り道させていただきたいんですが」  バッグから取り出した地図を指で示しながら沙也加が言う。 「ちょうど渡先生が行かれるルートの側に慰霊碑があるんです。そこへ行きたいのですが」  地図を見つめながら渡が訊いた。 「10年ほど前に旅客機の墜落事故があった場所か。君の知り合いが犠牲者の中にいたのか?」 「私が、その生存者の一人だったんです。両親と3人で旅行に行った帰りに、事故が起きて。私は座席ごと山の中に放り出されて、大けがはしましたが、一命は取りとめて救助されました」 「そうだったのか。それでご両親は?」 「遺体はとうとう発見されませんでした。私は父の兄、つまり伯父さん夫婦に引き取られて、育ててもらいました。怪我の後遺症で長い事体が不自由だったので、元気になった今、慰霊碑へ行ってみたいんです」 「それで同行したいというわけか。いいだろう、急ぐ調査じゃない。その程度の寄り道なら、私にとってもいい気晴らしになる」  横から地図を見た遠山が渡に訊く。 「特に変わった場所でもないようですが、渡先生、何を調べにここへ?」  渡は沙也加から地図を受け取って指でいくつかの場所を指した。 「蒜山(ひるぜん)という岡山県の火山地帯だ。興味深い事に、この辺りと鳥取県の間に人形峠という場所がある。知っているか?」  遠山も沙也加も首を横に振った。渡は地図を沙也加に返しながら言う。 「日本で唯一と言っていい、ウラニウムの鉱脈がある場所だ。火山活動とウラン鉱脈の関係、これを研究してみようと思っていてな。とにかく一度付近に行ってみようというわけさ」
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