出会い

1/2
前へ
/4ページ
次へ

出会い

 その生きものが現れたのは三日程前だった。ぽつぽつと雨粒が滴る冷えた日だった。  友だちもいない俺は講義を終えてそそくさと家に帰ろうと、誰よりも早く棟を後にした。そんな俺の目の前に、そいつが突然現れた。  周りを見ない鈍感な俺がそいつを認知することになったのは、『声』がきっかけだった。  『....え。ねえってば』  声の方に目を向けると、俺を見上げる白い猫がいた。初めは気のせいだと思った。だが周囲には人の姿もない。その事実もあって、声と猫が俺の中で重なった瞬間、俺はこの非現実的な光景にぞっとした。  「猫が...ありえねぇ。」    『失礼だな。猫だから言葉を知らないって言いたいのかい?これだから人間は。猫が話さないって誰が決めたのさ。大体人間は人間の言葉を口にしないと話さないって決めつけるけど、そんなの僕から言わせれば傲慢(ごうまん)だね。だって...』  唖然とする俺に突然、猫は責め立てる説教を浴びせた。そんな不服な状況だから一驚も忘れて猫を無視し、俺はそこから立ち去ろうとした。  『おーい!僕はまだ喋ってる途中なんだぞ!』  猫が喚きながら俺をつけてくる気配を感じる。  「...おまえ、どうやって喋ってんの。」  その続きを聞かされる前に、俺は話を()らす手に出た。  『少しは自分で頭を動かしたらどうだい?僕は口を動かさない。でも君には僕の言葉が届いている。つまり僕の言葉は君の耳じゃなく、脳に届いているんだよ』  「意味わかんねぇ」  つまりはテレパシーと言うものなんだろうが、そんなものただの幻想だと思っていた。  俺の吐き捨てた台詞に、猫は再び小言を重ねた。人のように舌を使って話すのは疲れるだの、自分はそれを習得するために頑張っただの。  何よりそいつの話し方は自分を上げて俺をコケにするような言い草だったため、いちいち腹を立てるのも馬鹿らしいと、俺は全てを聞き流して家路に集中した。  
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加