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 1年半前。  中里貴徳はある秋の夜、住宅街の路上で倒れているところを発見された。  雨の夜で、目撃者はおらず、誰が貴徳の死に関わっているのかわからなかった。  犯人は捕まらず、手がかりもないまま一年半が過ぎていた。  事件のあった夜、祐介、一之、薫、真琴の四人は全身ずぶ濡れで深夜遅くに帰宅した。  泥に汚れた顔は青ざめておびえ、何を聞いても「知らない」の一点張りだった。  母親たちはなにがあったのか悟ったが、それ以上問い詰めることはできなかった。  恐ろしくて。     通夜の夜、由起子ははじめて貴徳の母親に会った。  あずさというその母親は、枯れ木のようにやつれ、どす黒い顔色をしてうなだれていた。  聞けば貴徳の父親は亡くなっており、あずさには貴徳しか家族はいないということだった。 「お気の毒ね」 「ほんとうに」  由起子たちは通夜会場の外で顔を合わせたが、事件についてはなにも言わなかった。  それからしばらくして、中里あずさは姿を消したのだった。  子供たちは高校受験をへてそれぞれ目標の学校へ進学し、生活していた。  ムシのいい話だが、母親たちは子供たち以上に事件のことを忘れてしまいたがっていた。
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