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 その四人の母親たちは、いま、集合していた。  中里あずさが一年半前まで住んでいたマンションの部屋は、そのまま残されていた。  あずさは、通夜で見た時とずいぶん変わっていた。  髪はつややかに手入れされており、唇には控えめながら紅がさされている。  表情はおだやかで、由起子たちが訪ねて行くと深夜という時間にもかかわらず、部屋へ招じ入れてくれた。  しかし、いざリビングで対峙してみると、なんといって切り出せばよいのか、由起子達にはわからなかった。  部屋は狭いながら、きちんと整理されており、家具といえば古いテレビと録画デッキの乗ったテレビ台ぐらいしかない。  どう耳をそばだててみても、高校生の男の子四人が監禁されている気配はまったくなかった。 「お久しぶりですね、皆さん」  口火を切ったのはあずさだった。  紅茶を入れてくれたが、形だけでも手をつける者はいなかった。 「こんな夜更けに訪ねていらすとはよほどのご用なのでしょうね?」  落ち着き払ってあずさは言った。 「中里さん、あの」  渡辺真琴の母、礼子が空気中でおぼれてるような声で言った。 「実は私たちの息子が帰ってこなくて、何か事情をお知りじゃないかと思ったもので…」 「失礼を承知でこんな時間に押しかけてしまって、申し訳ございません」  気の強い田淵 知美が言った。 「もちろん」  とあずさは紅茶のカップを置いてから言った。 「知っています」  動揺が一同に行き渡るのを見届けてから、あずさは続けた。 「一年半前になにがあったのか、今あなた方の子供たちがどこでどうしているのか、私はすべて知っています」 「それは、その」 「貴徳は日記をつけていたんです。学校の内外で日々受けていた屈辱的な扱いや暴力、お金を取り上げられ、憂さ晴らしに殴られて蹴られて、嘲笑されたすべてのコトを日記に書いていました。誰が何をやったのか、はっきり名前を書いて遺してくれました」  由起子は急に部屋の空気が薄くなったような気がした。  あえぎながら手を握り合わせ、あずさを見詰めた。 「どうか、許してください」  となりで美津子が謝っていた。 「どうか息子を返して!」 「私に貴徳を返してくれるなら」  ひややかな声であずさが言った。  部屋に沈黙が落ちた。
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