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「……んん」
「あ、起きた」
「おはよう、十和子ちゃん。……って、まだ夜だけど」
「いま、何時?」
「二時。午前の」
シャワーを終えた浩介が身支度を整えているのがぼんやりと見えた。重たくなった体を起こすと、かかっていた光樹のシャツが落ちる。眼鏡をかけて光樹を見ると、彼はパンツ一枚でビールを飲んでいた。
「浩介、帰るの?」
「あぁ。明日……もう今日か、昼の情報番組に出るんだよ。朝から打ち合わせがあるから、もう帰らないと」
「なら、私も帰る……」
「わかった。タクシーもう一台呼ぶか」
「僕が予約したのに乗っていいよ」
「いいの?」
「いいよ」
光樹は散らばった私の服をかき集めてくれる。ストッキングはもうボロボロだから、ゴミ箱に捨てた。ゴミ箱の中には二人が使った避妊具が入っているけど……何個あるのか、数えるのはやめた。たくさんあることだけはわかる。
「そーだ、今度デートしようぜ」
「デート?」
光樹の提案に浩介が首を傾げる。私は大きな口で欠伸をしながら二人の話を聞いていた。
「おもしれー場所教えて貰ったんだよ。今度行こう」
「君がいう『おもしろい』は少し疑問の余地があるけどね」
「なんだよ、喧嘩売ってんのか?」
「ほら、もー。言い争いしないで」
下着だけ身に着けて、私は光樹に近寄り額にキスをする。すんなり大人しくなるところはまるで小さな子どもみたい。
「いいだろ、十和子。行こうぜ」
「もー、仕方ないなぁ」
頭をぎゅっと抱え込んで髪を撫でると、光樹は私の腕の中で「やった」と嬉しそうな声をあげる。
「十和子ちゃんはコイツに甘いんだから」
「あら? 浩介にも甘いけど?」
「知ってる。ほら、タクシー来ちゃうから早く服着て。あとコレも渡しておくね」
浩介はカバンの中からストッキングを取り出す。私は浩介の頬にキスをして、それを受け取った。
「ありがと、大好き」
「僕も」
「なー、俺は?」
「光樹も、もちろん大好き」
もう一度、光樹は「やった」と呟いて満面の笑みを見せていた。
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