キスマークは残さないで

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*** 「……んん」 「あ、起きた」 「おはよう、十和子ちゃん。……って、まだ夜だけど」 「いま、何時?」 「二時。午前の」  シャワーを終えた浩介が身支度を整えているのがぼんやりと見えた。重たくなった体を起こすと、かかっていた光樹のシャツが落ちる。眼鏡をかけて光樹を見ると、彼はパンツ一枚でビールを飲んでいた。 「浩介、帰るの?」 「あぁ。明日……もう今日か、昼の情報番組に出るんだよ。朝から打ち合わせがあるから、もう帰らないと」 「なら、私も帰る……」 「わかった。タクシーもう一台呼ぶか」 「僕が予約したのに乗っていいよ」 「いいの?」 「いいよ」  光樹は散らばった私の服をかき集めてくれる。ストッキングはもうボロボロだから、ゴミ箱に捨てた。ゴミ箱の中には二人が使った避妊具が入っているけど……何個あるのか、数えるのはやめた。たくさんあることだけはわかる。 「そーだ、今度デートしようぜ」 「デート?」  光樹の提案に浩介が首を傾げる。私は大きな口で欠伸をしながら二人の話を聞いていた。 「おもしれー場所教えて貰ったんだよ。今度行こう」 「君がいう『おもしろい』は少し疑問の余地があるけどね」 「なんだよ、喧嘩売ってんのか?」 「ほら、もー。言い争いしないで」  下着だけ身に着けて、私は光樹に近寄り額にキスをする。すんなり大人しくなるところはまるで小さな子どもみたい。 「いいだろ、十和子。行こうぜ」 「もー、仕方ないなぁ」  頭をぎゅっと抱え込んで髪を撫でると、光樹は私の腕の中で「やった」と嬉しそうな声をあげる。 「十和子ちゃんはコイツに甘いんだから」 「あら? 浩介にも甘いけど?」 「知ってる。ほら、タクシー来ちゃうから早く服着て。あとコレも渡しておくね」  浩介はカバンの中からストッキングを取り出す。私は浩介の頬にキスをして、それを受け取った。 「ありがと、大好き」 「僕も」 「なー、俺は?」 「光樹も、もちろん大好き」  もう一度、光樹は「やった」と呟いて満面の笑みを見せていた。
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