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ゲネプロの日は、早朝からレオナードの部屋へ向かった。
土曜日だったが、家を出るときには仕事だと言った。
妻は何も尋ねてこなかった。
ぼうっとしているレオナードを起こして、朝食を食べさせた。着替えを手伝って、午後には劇場へ連れて行く。
選び抜かれた総勢50名の少年少女も、新進気鋭の指揮者も、由緒ある大劇場にふさわしい将来有望な音楽家ばかりだ。
丹念な打ち合わせが終わるのを、アンドリューは客席で見守った。
「レオ、明後日から仕事でプラハに行くんだ。君も一緒に行かないか?」
演奏が終わり、レオナードと握手をしながら、指揮者が言った。帰り支度で忙しいオーケストラのメンバーには、聞こえなかったようだ。
困惑した顔で、レオナードがアンドリューを振り返る。
「学校で勉強するよりも、現場で学ぶことは多いよ。人脈も広げるべきだ」
音楽家が、自分の仕事に弟子を同伴するのはよくあることだ。
音楽学校を卒業したからといってプロになれるわけではなく、新人は実際の仕事を間近で見て学び、いつか巡ってくるチャンスを待つ。
アンドリューは急いでステージに上がった。指揮者は不愉快そうに、間に入ったアンドリューを睨む。
「僕は行けません、アルマン。誘ってくれたのはとても光栄で、嬉しく思うけれど」
レオナードはにっこりと指揮者に微笑み、アンドリューを振り仰いだ。
「アンディ、もう帰りたい」
彼が指を絡めてきた。
潤んだ目をしていた。
手をつないで劇場を出て、タクシーを拾った。
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