§アル・フィーネ

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 妹の幸せそうな笑顔に比べて、妻のエリザベスはことごとく悲観的だ。 「もうリチャードは、つかまって立とうとするの? まだ6か月なのにすごいわ。うちの子はあまり動こうとしないのよ」  3か月ほど早く生まれた小アンドリューは、広げたプレイマットの上で、ゴロゴロと寝転がってばかりいる。  そこら中を這い回り、椅子や机の脚につかまっては立ち上がろうとする、すばしこいリチャードとは対照的だ。 「赤ちゃんのうちは個人差があるから、あまり心配しないで」  不安げなエリザベスを、エレインがフォローした。 「ナニーもそう言うけれど、もしかしたら足腰が弱いのかもしれないわ。あまり声も出さないし、発達が遅れているのかしら」  控えめなうえに慎重な妻は、1歳にもならない我が子が歩かないと言っては悲嘆にくれる。  息子が大柄で大人しいことに、アンドリューは何の心配もしていなかった。リチャードと比べたら愚鈍な気もするが、どちらにしても歩き出す前の乳児に優劣はない。 「ちょっと来て、アンディ。荷物を運ぶから手伝ってくれる?」  エレインが振り返って、尖った声で言った。アンドリューの腕を取り、玄関先へ引っ張り出そうとする。 「アンディ、もっとリズをいたわってあげて。子供のことに神経質になるのは、父親が無関心だからよ」 「俺だって子供は可愛がっているさ」  エレインの目が冷たく光った。 「リズがいつも笑顔でいるのは、周囲に気を遣っているだけなの。彼女だって、何も気づいていないわけじゃないのよ」
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