§アル・フィーネ

26/29
前へ
/170ページ
次へ
 家に帰ったのは結局、月曜の朝だった。青ざめる妻に、その場で離婚を申し出た。  理由は説明しなかった。全財産を妻と子供に譲り、どうか許してくれと頭を下げた。  両親は激怒したが、妻は泣かなかった。結婚当初から家に居つかない夫に、彼女は薄々、愛人の存在を感じていたようだ。  その日から、事務的な離婚の手続きを始めた。同時に最低限の家具を買って、レオナードがいつ移り住んでも困らないように、電気や水道の手配もした。  最後に見たいと思ったのは、妹の顔だった。  従弟の家へ出向くと、ちょうどロバートが膝の上で7か月のリチャードをあやしている最中だった。 「エレインはついさっき病院へ出掛けたばかりだよ。2人目を妊娠したかもしれないと言っていた」  ロバートが笑顔で言った。  いたずら盛りの甥っ子は、父親の体をよじ登っては、よだれのついた小さな手できちんと整えられた髪の毛を引っ張っている。 「いたた…」  ロバートがおどけると、リチャードは声を上げて笑った。こんな光景が見られるなら、妹は大丈夫だろう。夫や子供に囲まれて、幸せな人生を歩んで行けるに違いない。 「決着は着いたの?」  黙ったままのアンドリューに、ロバートが尋ねた。夫婦関係がうまくいっていないことは、エレインから聞いて知っているのだろう。 「俺が家を出ることになったんだ」 「なんだって?」  ロバートは大きく息を吸い、しばらく考え込んだ。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加