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「また一緒に仕事ができるね。オファーを引き受けてくれて嬉しいよ」
男は訛りのあるフランス語でそう言うと、にやりと笑った。
仕事関係の仲間だから、最低限の礼儀は尽くすが、アンドリューはこの若いイタリア人が好きになれない。馴れ馴れしい態度を疎ましく思いながら、場違いに陽気な笑顔を見返した。
さっきまでいた事務所で、打ち合わせの最中に飽きるほど聞いた名前だったが、不意に現れた実物には掛ける言葉も見つからない。
第一、自宅に招くほど親しい仲ではない。
「じゃあ、また。レオによろしく」
洒落たジャケットが視界から完全に消え去ってしまうまで、アンドリューはその後ろ姿を呆然と見送った。
それから唐突に、あの男が上機嫌だった訳を悟り、キッチンを飛び出した。
「レオ!」
寝室に駆け込み、雑然とした室内を見回した。
ベッドは空で、いかにも今起きたばかりという乱れようだ。紺のカーテンは閉められたままで、絨毯の上には無造作に衣類が散乱している。
「レオ!」
大声で名前を呼ぶと、ようやくバスルームから間延びした答えが返ってきた。
「えー? なあに?」
硝子戸の向こうから現れたのは、のんびりした口調に相応しい、屈託のない笑顔だった。
シャワーを浴びたばかりの栗色の髪は、艶やかに光り、滑らかな白い肌は上気している。
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