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彼は素肌にバスローブを羽織り、ゆったりした足取りで近づいてきた。
「お帰り、アンディ。どこに行ってたの?」
彼は甘えるようにすり寄ってきて、アンドリューを見上げた。
バランスの整った美しい顔。無邪気な微笑み。俗世間とは無縁のあどけなさ。
胸の奥が焼けるような痛みを訴えている今でさえ、この純真さにはいつもほだされる。
「今そこで、アレッサンドロに会った。あいつは何の用で来たんだ?」
彼は表情を曇らせ、つまらなさそうに横を向いた。
「別に、何も。サンドロから電話が来たんだ。久しぶりだから会わないかって」
アンドリューは、自分の質問の馬鹿さ加減に呆れていた。
あの駆け出しのテノール歌手は、朝に弱い彼が自宅にいることを知っていてやって来たのだ。今日アンドリューが仕事で外出することも、もちろん承知のうえに違いない。
「それで? ここへ呼んだのか?」
退屈そうな顔で、彼がため息をつく。明るい茶色の瞳は、反抗的な色を浮かべていた。
「いいだろ、別に。友達なんだし」
アンドリューはバスローブの襟をつかんで、思わず彼を引き寄せた。
もし彼が、ここで言い訳をしてくれたなら、それがどんなに見え透いた嘘でも、きっと信じてしまうだろう。
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