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*プレリュード
アパルトマンの重い扉を開けると、室内の空気は、初秋の外気温並みに冷え込んでいた。
白一色の玄関ホールは広く、殺風景で、漆喰の天井は寒々しいほど高い。
石畳のせいで傷みの早い革靴を、そろそろ新調しなければと、アンドリューはぼんやり考えた。
がらんとしたリビングルームの中央を、グランドピアノが占領している。大きな4つの窓はどれも縦に長く、凝った花模様の黒い手すりがついていた。
「レオ?」
リビングを通り抜け、キッチンを覗く。東向きの狭いキッチンにも、隣の洗濯室にも、彼の姿はなかった。
テーブルの上は綺麗に片付いていて、今朝アンドリューが出掛けたときのままになっている。
思わず腕の時計を見た。午後の1時過ぎなら、いくら朝が苦手な彼でも、朝食くらいは済んでいる時刻だ。
「やあ、アンドリュー」
背後に人の気配を感じたのと、思いがけない相手に声をかけられたのは同時だった。
アンドリューは驚いて振り返り、しばし唖然とした。
「アレッサンドロ…」
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