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千歳屋学園風紀委員会副委員長。
2-S 保泉 透。
これが俺の肩書き。強そうでしょ?強いよ!
今日も今日とて粛清粛清。この千歳屋学園ではデイリーミッションよろしく事件が多発する。
俺のようなエリートは電話一本、最短5分で解決出来ちゃうけどね。
先程の強姦未遂事件はそのほんの一端である。
千歳屋学園高等学校
私立の全寮制男子校で、全国から選りすぐりのエリートや富裕層が集まる、極めて入学の難しい最難関高校。
また偏差値だけでなく顔面偏差値が高いことも人気の訳だが、山奥にひっそり…ではなくでかでかと聳え立つ学園はかなり閉鎖的で、詳しい学園内の情勢が外に漏れ出ることはない。
と言うのが外側から見た此処。
実態と言えば、バイが6割ゲイが2割、同性愛におおらか且つ性に奔放過ぎる学園。
顔面偏差値と成績と家柄がものを言う最強の縦社会。
閉鎖空間でのメイクラブは留まるところを知らず、男同士の強姦!親衛隊の制裁!普通にイジメ!事件多発!粛清!風紀過労!
これぞ正に治外法権!
つまりどういう事かって?
俺がめちゃくちゃ仕事してて偉いって事だ。
捕縛した男を他の委員に突き出し、報告のために風紀委員室に顔を出す。
煌びやかなシャンデリア、歴史的価値があるのかさっぱりわからないクソデカ絵画、相も変わらず豪奢な造り。
端に置かれた高そうな壺割ったらホスト部に様変わりしないかな。
「保泉、御苦労だった。」
そしてこちらに御座すはホスト部に君臨する絶対的王者。
風紀委員長、不破夏葵先輩である。
「不破委員長お疲れ様で〜す!貴方の忠犬、只今帰還致しました!」
委員長に向かってはい最敬礼。
ひらりと手が振られた気配に顔を上げる。『表を上げよ』とかそういう?
視線を上げると、不破委員長の藍がかった瞳が無感情にこちらを捉えていた。
濡れ羽色の前髪の奥から覗くあの鋭い眼光に、身が竦まない奴がいるだろうか。いる。俺。
怒ってないのはわかるけど、指使っていいからもうちょっと目尻下げたりしてくんないかな。
数拍置いた後、溜息混じりに委員長が口を開いた。
「一応聞いてやる。怪我はないか?」
この絶妙なウザさと優しさが良い塩梅。
空気がゆるゆると弛緩した。ついでに口も緩む。
「もーバッチリです!今回なんて手を使わずにちょちょいと蹴っただけでもう男が震え上がっちゃって、どんだけ俺に会いたかったの〜!?っつって、あっ違います舐めプとかじゃないんですよだからそんな睨まないで!!!」
「………まあいい。それで、壊したのは扉一枚だったな。」
「大変申し訳ございません!保泉ちゃんの顔に免じて許して!!!」
だって粛清には乱闘が付き物じゃん!まあ今回は乱闘してないけど!!
一度喋り出すと相手を蜂の巣にするまで止まらない俺のマシンガントークを、この人はものともしない。
おかげさまでギリギリ会話が成り立つ訳だが、それでも委員長の顔にはでかでかと『無駄口を叩くな』と書いてある気がした。タマヒュン。
「…今日のところはもう帰っていい。暗くなってきた」
もうそんな時間?
時計を見上げると短針が7。
風紀のパトロールとして放課後の学園を巡回していた訳だが、時間を忘れるくらい仕事に没頭してたって事?やば、俺すげー優秀。
まあ道草食ったりしてたけど。
委員長にはそこら辺もお見通しなのだろう。今回は粛清一回分で寄り道お咎めなしだ。
「それと、今夜必ず靴を洗うこと。」
委員長の視線が高そうな絨毯を踏みつける俺の靴に注がれる。
あ、そうだった。
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