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部屋中から香るコーヒーの匂いと、デスクで開かれたままのパソコン。わかった、わかったぞ…!
「徹夜した?委員長」
俺の名推理にも委員長は表情筋をぴくりとも動かさなかった。
「し………た。が、お前には関係のない話だ」
一瞬嘘をつこうか逡巡してやめた感じの間。
あの委員長が言い淀む感じからして結構疲れが溜まっているのでは?
快眠だ〜散歩しよ〜とか思ってた自分のあまりの呑気さに思わずでかい溜息が出た。
「も〜〜〜…関係ない事ないでしょうが、絶対風紀の仕事でしょ」
「午後には終わる。気にせず報告を続けろ」
「…鵜飼のルームメイトに平七海くんっていう生徒がいます。その子が…」
要点を掻い摘んで簡潔に報告を済ませる。
委員長は時折メモに書き留める様子を見せながら、終始険しい顔で耳を傾けていた。
本当は今すぐ寝ちまえとちゃぶ台返ししても良かったんだけど、一度風紀の用件と言ってしまったからには手早く報告を済ませないと、返って委員長の心労が増える事になるからね。
「…ひとまず承知した。ご苦労だったな」
この件に関しては、これから風紀内で対策を練っていく事になるだろう。結局のところ原因と言えばチセの元に収束するわけだけど、それはあくまで表面上の問題に過ぎない。根本的な問題は、きっとこの学園の因習自体にある。元々一朝一夕で解決するような問題ではないのだ。
だからつまり、睡眠はしっかりとれという話。
「何さらっと帰そうとしてんだ。仕事あるなら分担してくださいよ出来る上司なら」
「お前の事を信頼していない訳ではない。俺が終わらせておきたいから、先のものを今進めているだけだ」
積み上げられた書類を指さすと委員長は首を横に振った。いやいやじゃねえんだよ。下手に出れば物知り顔で喋りやがって…
まるで俺が拗ねた子供みたいに扱われて、それに余計ムカついた。
「あんたが俺を副委員長に選んだんでしょうが。せめて責任持ってくださいよ、後輩大切にしたいんでしょ?」
「…ああ。」
委員長にお小言とか俺も偉くなったもんだなあ。いや結構言ってるかもしんないけど。
どこか意気消沈して見える委員長のあんまりなしおらしさに少し笑いそうになる。嘘、笑った。
途端射殺さんばかりに委員長の視線が鋭くなるけど、威厳もクソもない。
「ぶは!!!!っははは!!そっ、そんなしょんぼりしないでくださいよぉ似合わねー……はぁ、不破先輩は良い委員長ですよ。まだ緊張が抜けてないだけで」
「緊張」
俺が副委員長に指名されたのは先月。
不破先輩が委員長に任命されたのも、たった一ヶ月前の話。
元から仕事熱心な人だったけど、委員長の席についてからは過剰なほど働き続けていた。まあ着任早々嵐みたいな転校生来て余計気が抜けないみたいなとこはあると思うけど。
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