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「俺も緊張してますよ。副委員長の立場についたからって、中の人間が変わったわけじゃないんだし…。だから委員長も、去年みたいに遠慮なく俺の事こき使って頼ってくださいよ〜」
風紀の下っ端精神で生きていた俺にとって副委員長の任命は大抜擢だった。ほんとに風紀を言い訳に好き勝手暴れ回ってたから、なんで管理職なんだよと思った。周りからも『マジ…?』という目で見られた。
委員長は考え込むように顎に手を添える。
恐ろしいほど感情の機微がないように見える委員長だが、心做しか驚いているよう、な。
「………」
「…な、なーんちゃって。ほら仕事しましょ」
委員長の前でいつもべらべらと饒舌に動く口が途端回らなくなる。普段お調子者をしてる弊害で、真面目に話そうとすると五分と持たないのだ。
先程から俺の姿を捉えて離さない、深海のような重さをした藍の瞳に、思わずうっと後ずさった。ただ見つめられては身が持たないからなんとか言ってほしい。
元より委員長は寡黙というか事務的な会話しかしない人だったけど、いつも以上に間が持たなくてしんどい。
「委員長〜…?やっぱ眠いならねんねしたらどうです?その方が後々作業効率上がるんじゃ…」
「__俺は少々頭の堅いところがあるらしい」
「え?そうですね」
唐突に口を開いたと思ったら、らしくもなく自虐。
そんなの風紀の全員が知ってることなのになぁと思って即同意してしまった。俺はカスなのかもしれない。
そんな俺に睨みを利かせるわけでもなく、委員長は続けて言葉を紡ぐ。
「だから、保泉を副委員長に選んで良かったと思っている」
え、
硬ばった表情が甘く溶けて。
委員長の顔には微かな笑みに似たものが浮かんだ。
他人と見紛うほど穏やかな顔つきに、俺は、
「………お部屋間違えたみたいです…」
「…」
反射で冗談を言わずにはいられなかった。
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