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「そういやパイ投げの材料も持ってきたんだけどさ、この部屋汚すと庶民の心壊れちゃうからクリーム無しでいい?」
「紙皿投げ合いっこするのぉ?お部屋汚したら親衛隊の子達にお片付けしてもらえばいいんじゃない?」
「クズ!」
マキノの顔面に紙皿をぶつける。当たり前だけど、すごくへろへろのストレートだった。
そのまま紙皿をいかに落とさずトスできるかマキノと競っている内に、キッチンの方からふわりとだしの良い香りが漂ってくる。
「日向ちゃんの手料理楽しみだな〜」
「ふふん、心して食えよ」
「なんで保泉ちゃんが得意げなのぉ?」
桔梗の家庭力に一番恩恵を受けているのは俺だからな。威張ることではないけど。
ボンボン育ちで配膳の経験がないマキノを引っ張ってキッチンに向かう。
「桔梗お手伝い要るー?」
「ん」
エプロン姿がよく似合う桔梗に、しゃもじとお椀を手渡されたマキノが何するの?という顔で俺の方をチラチラと見てきた。
この子自分の部屋で何食って過ごしてるんだろうと不安になる。
「お米よそうの、わかる?マキノくんの食べたい分好きなだけよそっていいよ〜よぉ〜しよし」
「ほんと?やったぁ。いつもネコちゃん達がご飯作ってくれるからこういうの楽し〜」
そうですか。
マキノがルンルンでお茶碗に米を丁寧に盛っていく。わざわざ綺麗な山型にしようとするの、昔の俺もやったなあと生暖かい瞳で見てしまった。
肉じゃがにしょうが焼きにおひたしに卵焼きに、いかにも家庭料理と言えばこれという感じの品々が食卓に並べられていく。
「茶色ばっかりで雑に盛られてて美味しそ〜」
彩り考えて皿に小さく盛るタイプのご飯ばっかり食べてきたマキノは、大皿にこんもり盛られたおかずを見てにこにこしていた。マキノは知らなかったんだろうけど、基本茶色のおかずは美味しいんだよ。
食事の支度が整うと、三人で食卓につく。
いつもの調子で桔梗と手を合わせて「いただきます」と言うと、マキノも笑顔でそれに続いた。
そのまま食事に口をつける様子を無遠慮に見守る。
上品な所作で肉じゃがを口にしたマキノがふにゃりと溶けるようにはにかむ姿を見て、桔梗と顔を合わせて笑いを零した。
「おーおー、美味しいか」
「美味しい〜!日向ちゃんにご飯お願いしてよかったぁ」
「…そうか」
今日の桔梗の家庭料理は全てマキノのリクエストだ。誕生日プレゼントはいいからいつも日向ちゃんと保泉ちゃんが食べてるものが食べたいなんて、マキノにしては殊勝な願いだと思った。
こういう所が人たらしと言われる所以なのだろう。
俺と桔梗は一応一般家庭出身だが、マキノは違う。
ずっと昔から雅楽を世襲してきた由緒正しき家門、雅楽川家の長男というのは全校生徒の知るところだ。だが家庭環境が少し特殊で、マキノは庶民や日本文化に疎かった。
…それ以上の事は俺も知らないけど、多くを聞かないのがスマートな大人というものだろう。
「…保泉ちゃんオレの事見過ぎじゃない?やっぱり惚れちゃったぁ?」
「その端正な顔に穴をぶち開けてやりたくてな…」
「照れ隠しが暴力的だよ〜」
照れてないし。
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