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窓に叩きつけられては絶え間なく流れていく雨粒を見送る。どんよりとした陰鬱な曇り空からは、今にも雷が落ちてきそうだった。
6月。それは雨の季節。
「あー…めんど」
特別寮の玄関フロアで悪態をつこうとも、学園の校舎が此方に迎えに来てくれる訳ではない。
寮住まいのため大した距離でもないが、どうしたって梅雨の通学というものは学生にとって憂鬱なものなのである。
「おー、保泉か」
そしてちんたらしている内に生徒会長と出くわしたのも、俺にとっては憂鬱なのだ。
「おはよー会長、ちょっと雨止めてくれません?」
「生徒会長の権限を過信し過ぎじゃないか?大人しく傘さして登校しろ、これからもっと雨脚が強くなるそうだからな」
「うげ」
俺は風紀委員室に用事があったから早起きしたんだけど、まさかこんな時間に会長が居るとは。
眠たげな様子もなく髪のセットも制服もばっちり決まっている会長を見ると、普段の恥ずかしい言動が嘘みたいに真面目な生徒会長に思えてくる。まあ錯覚なんですけどね。
これからもっと降ると聞いて休校の二文字が頭を掠めたけど、寮生活のこの学園には有り得ない話だった。
大人しく現実を受けいれ、傘をさして特別寮を出る。
当たり前のように会長が横並んできたけどどうしてやろうか。変顔で威嚇しとくか。
「…なんて顔するんだお前」
ドン引きされた。
「はあ…こんな天気だと会長に八つ当たりもしたくなりますよねー、えいえい」
「痛っおい加減を覚えろ馬鹿犬!」
そこまで力込めたつもりはなかったけど、俺の想像以上に会長は貧弱なのかも。
そんな心の内を見透かしてか傘の向こうから会長が物言いたげな目線を送ってくるものだから、とりあえずウインクして誤魔化した。
「お前に天気に左右されるような繊細な一面があるとは思わなかったな」
「失礼な、雨に降られた俺の服や靴を洗うのは誰だと思ってるんですか?」
「日向だろ」
「はい」
ここには姿のない日向桔梗に思いを馳せる。
毎日お世話になっています、と。
会長からは信じられないという顔を向けられた。当ててきといてなんでそんな驚いてんだ。
「貴重な生徒会候補をこき使ってくれるなよ」
「まるで自分のモノのように話しますね、きも〜い!!キャッキャッ!!」
「…」
会長の握る傘からミシミシ聴こえてくる。おもろ。
「うちの二階堂も雅楽川もお前に懐いてるみたいだが、あまり生徒会の面々を籠絡してくれるなよ」
え、副会長が俺に懐いてる?
マキノはともかく、副会長が誰かに懐くとか懐かないとかそういうイメージが無かったから思わず首を傾げてしまった。それなりに友好的な関係築かせてもらってるとは思うけど。
にしたって籠絡って言い方は語弊しかないからやめてほしい。
ふと、俺の傘と会長の傘がぶつかる。
滴り落ちる雨水の向こう、風景にそぐわない燃えるような赤髪が此方に傾くように揺れた。
御子柴会長の瞳に映る俺と目が合ってしまいそうな程の近距離で、ほんの少し笑い声を孕んだ囁き。
「…もしかして、俺様の気を引きたくて誘惑しているのか?」
「あ、もうすぐ校舎ですよ」
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